所有権賃貸とは、所有権を一時的に譲渡すること、つまり所有権を期限付きで譲渡して、所有権譲渡の練習をすること。
かつて僕が、YTさんから笑恵館の永続経営を依頼されたとき、そのために克服すべき二つの問題を解決するために考え出したやり方だ。
二つの問題とは、「相続」と「経営破綻」による分割や売却のこと。
土地の利活用を継続しながら、そこに集うコミュニティを育てる「小さな国づくり」にとって、土地の分割や売却こそが死活問題だと思う。
まず、「相続」について言えば、分割や売却が無ければ問題ないので、これを禁止する法人を作り、所有者自身が参加するとともにそこに土地を譲渡するやり方を提案した。
こうすることで、譲渡所得税が発生するものの、無限に繰り返される相続税とは縁が切れるし、相続人たちも、土地継承の義務から解放されて、継承希望者なら他人でも法人に参加できる。
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こうして僕は土地を売るために資産でなく、利活用するための資源にするという思いを込めて「土地資源・Land Resource(LR)」という言葉を編み出し、日本土地資源協会という非営利型の一般社団法人を立ち上げた。
そして、2番目の課題「経営破綻」に取り組むことは、自慢じゃないけど僕の得意分野のど真ん中。
金銭負担を最小限にして、何事もDIY精神で、2014年の3月から笑恵館の経営に着手した。
当初は、土地建物の遺贈寄付を前提に、まずはLRが公益法人となることで、譲渡所得税の回避を目論んだ。
それには、土地建物を寄付した状態での事業計画や実績が求められるため、所有権移転後のシミュレーションを現実化するために、期限付きの所有権譲渡=所有権賃貸を思いついた。
個人の自分が自分の所属する法人に土地を寄付するスキームに対し、まずは個人の自分が所属法人に土地を貸すことも、シミュレーション手法として素晴らしいと内閣府で褒められた。
だが結局、公益化は譲渡所得税免除の必要条件であって、十分条件でないことが判明し、僕は「公益」という名の「役所の下請け」にならない道を選択した。
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こうした経緯から生まれた「所有権賃貸」というスキームを、さらに汎用性を持たせて普及するために、昨年度より笑恵館以外のプロジェクトにも適用する取り組みが始まった。
名栗の森は、これまでの「山を介した交流会」から「山林所有者のなすべきことを模索する会」に一新し、現地の普及啓発活動を開始した。
ふきの庭では、改修工事を終えた「メゾンふき」をホーム(活動拠点)に位置付けた「ふきの庭倶楽部」を設立し、古民家レンタルやメゾンふきのシェア居住・宿泊利用を加速した。
成城の一宮庵では、一宮庵の経営母体となる「一宮庵倶楽部」を、なじみの常連と立ち上げて、今後の運営に参加する新規メンバーを募っている。
そしてこれらの事業収支を独立採算のまま連結し、LRの定時総会にて会計報告を完了した。
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だが総会後、会員のKKさんから次のような問題提起がなされた。
現状の所有権賃貸契約は、所有者として事業を行うという意味付けに基づいているものの、その内容は業務委託契約と変わらない。
所有権と賃借権が混在する上に、規定外を民法に委ねて縛られるより、むしろシンプルな業務委託契約とすることで自由を確保した方がいいのではないかと。
僕が所有権にこだわるのは、そこに根本的な疑いを持っているからで、その問題意識こそが当法人の存在意義と深く関わることに疑いの余地はない。
一方で、その問題を意識しながらも、契約書式は簡素で分かりやすいものにしたいという思いが、現状契約書の内容をかえって難解にしていることも否めない。
そこで今日は、そもそも所有権賃貸にたどり着いたいきさつや思いを振り返り、今後の進路を見出そうと考えた。
そして、ここまで書いてきただけで既に答えは明白だ。
この契約は、あくまで所有権賃貸が目的であって、その方法を業務委託にしたこと自体が間違いだと気が付いた。
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そもそも僕が、所有権を委託業務にすり替えたのは、所有権を「ただの権利」でなく「行使すべき義務」にしたいと願ったからだ。
ここで言う「ただの権利」とは、行使しなくても処罰されない「やらなくていいこと」だ。
「選挙権」が「選挙しなくて良い権利」であるように、「所有権」は「放置してもよい権利」になり下がり、空き家や休耕地、山林が放置されている。
この問題に抗うために、所有者の思いを実現することを義務付けて、それを事業と位置付けたのが笑恵館だ。
つまり、笑恵館を引き継ぐことが、所有権を相続することでなく笑恵館事業を引き継ぐことになれば、それは相続でなく非営利事業の承継となって相続制度とはおさらばだ。
その結果、所有権が事業遂行権にすり替わり、事業の遂行を個人が法人に委託する話になり、気が付けば延長可能な期限付き業務委託契約となっていた。
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僕がこの間違いに気づいたのは、笑恵館以外の事業計画がすべて未完成のためだった。
実際に笑恵館は、2014年の3月から12月まで試運転したからこそ2015年の公益申請時に事業計画を作れたが、初年度には計画も予算も存在しなかった。
つまり、所有権賃貸の初年度は暗中模索の試行錯誤が行われる。
事業計画が作れるのはそれを踏まえた2年度目以降のことであり、所有権賃貸が事業計画を伴うこと自体が嘘だった。
むしろ事業計画の無い暗中模索の試行錯誤を行うことこそが、所有権賃貸でやるべきことなのかもしれない。
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そこで僕は、今日から新たな所有権賃貸契約書の作成に着手する、
そこには、何の根拠もなく自分の願いを語る所有者個人に対し、試しにやってみる所属法人と、それを許可する個人が存在するだろう。
そして所有者本人が個人と法人双方の当事者なので、自分が自分を信頼するという、究極の信頼関係に基づいている。
むしろ、自分の願いを他の人たちと分かち合うためには、その願いが自分に対し嘘でない正直であることこそが、問われているのかもしれない。
その意味において、所有権賃貸とは、「その所有権を使って実現したいと願うこと」を、期限を決めて共有することだろう。
やはり、所有権の再定義というか、所有権とは何かを具体的に明示することが欠かせない。
そして、期限付きの賃貸なのも、あくまで譲渡決心をするための、お試し、練習であり、取りやめも可能なことをきっちり説明したいと思う。
まさに「実現の練習」として、「所有権の賃貸」を普及したい。