インヘリットハウス

僕の住む「メゾンふき」は、「ふきの庭」と名付けた土地資源の一角にある賃貸住宅だ。
そもそも「ふきの庭」は、敷地内にある明治時代の古民家の保存と活用にチャレンジする事業としてスタートしたが、隣接する古家付きの借地が返還されたため、それを賃貸することで収入の確保を目論んだ。
東急池上線蓮沼駅より徒歩5分に位置するため、普通に賃貸物件として募集すればそれなりの賃料が取れるはずだが、できれば「ふきの庭」の取組に関心を持って、思いを共有してくれる人に入居して欲しいというオーナーの願いを実現すべく、まずは「ふきの庭倶楽部」を発足し、そのクラブハウスとして機能する「会員制のシェアハウス」としてスタートし、その管理人として僕が先行入居した。

「シェアハウス」とは、一つの建物の中で一部の設備(キッチン、浴室、リビングなど)を共有し、個別の居住スペース(部屋)を占有して暮らす賃貸住宅の形態を指す。
これは「shared house(シェアード・ハウス)」という英語からきた和製英語で、欧米では所有者が自宅の一部を賃貸するのが通常だが、これに対し日本では、賃貸物件をシェアハウスとして複数人に転貸するのが一般的だ。
その意味で「メゾンふき」は、むしろ本来の「shared house」に近い形態かも知れないが、さらに「会員制」とすることで、単なる同居人よりつながりを意識したコミュニティの形成をオーナーは目指している。
ところが「シェアハウス」と名乗る限り、そんな思いは届かない。
入居者に対し「オーナーの思いをきちんと届けるためにはどうすれば良いのか」が、企画担当の僕が取り組むべき課題となってきた。

そこでまず、「メゾンふき」と一般的なシェアハウスの違いを具体的に述べてみたい。
「ふきの庭」はオーナーN家の「母屋(親世代の家)」と「アトリエ(子世代の家)」、その北側に「広い庭のある古民家」、そして南側に隣接する「メゾンふき(元借地)」の4軒の総称で、「古民家とその庭」をイベントや撮影にレンタルしながらその価値を共有する仲間を募っている。
施設のレンタルやイベント開催に際しては、「ふきの庭倶楽部」への入会を義務付けて、「ふきの庭」を必要とする人たちのコミュニティを育てている。
借地人が退去して空き家となった「メゾンふき」は、僕(松村)が居住しながら体制を整えて、会員用の居住・宿泊施設としてコミュニティ運営の拠点にした。
通常の「シェアハウス」であれば、入居者は専用室分の賃料を負担するのが通常だが、「メゾンふき」は居室を専有せず空室や共有部分に宿泊するだけなら、共有会費と安価な宿泊費のみで宿泊できる仕組みとした。

「ふきの庭倶楽部」の会員は、レンタルやイベント開催など施設利用ができる「利用会員」と、施設への居住や運営に携わる「共有会員」の2つに分類し、イベント参加ができるだけの「一般(非会員)」と区別した。
「居住」を「利用でなく運営」に位置付けたことが、最大の特徴かもしれない。
会員はコミュニティの当事者だが、利用だけなら顧客(他人)で、居住や運営は身内(家族)というイメージだ。
居住者から徴収する家賃は、居住に対する対価ではなく、共に所有する家族としての負担の分担だ。
つまり、シェアするのは居住権でなく施設の維持費であり、居住権はあくまで共有にこだわりたい。
と、いくら説明しようとしても、こじつけにしか聞こえない。
「シェアハウス」という言葉で理解して欲しくないのはなぜなのか、もう一度やり直してみよう。

僕が「シェア(配分)」でなく「共有」にこだわるのは、部分でなく全体を所有して欲しいから。
つまり、将来「ふきの庭」を継承して欲しいので、その継承者候補として仲間を募っているからだ。
だが、家族に継承を義務付けると、それはかつての封建制度となってしまうので、基本的には来るもの拒まず去るものを追わない「自発意思による継承」にこだわりたい。
たとえ「ふきの庭倶楽部」に賛同者が集結し、「ふきの庭」が楽しく利活用されるようになっても、それが継続するためには、「ふきの庭」の担い手=所有者が、世代を超えて引き継がれる必要が有る。
そんな「自発的継承候補者」を募集するのに「シェアハウス」という言葉で事足りるとは思えない。
思い切って「継承する(inherit)」を使って「インヘリットハウス」と名乗って、「それなんですか?」と問われた方が良いかも知れない。
よおし、やってみようかな。

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