罪と罪人

9月1日、M町議会において、松村拓也の副町長選任議案が否決された。
もちろんやる気満々だったので、否決されたのは悔しいが、内心ちょっとホッとした。
なぜなら、「もしも可決され、M町に集中すると、他の活動に支障をきたす」からだ。
予告もせず、突然別の仕事に集中するなど、僕の関係先にはいい迷惑だ。
もちろん丁寧に説明し、理解と協力を得るしかない。
議会の承認が無ければ叶わない人事なのだから、事前の根回しも予告もしたくなかった。
という訳で、否決されたのは残念だが、この話を堂々と話せるようになったことはすごくうれしい。
一応実名でなくイニシャル表記とするが、今日は簡単な近況報告をしたい。

そもそも、M町長と知り合ったのは、一昨年僕が事務局長を務める法人が主催するシンポジウムをM町で開催するにあたり、初めの当選を果たしたM町長が、会場に顔を出してくれたのがきっかけだ。
独自のまちづくりに取り組むM町に興味を抱き、その後地元の法人から相談を受けたりしたが、M町長と直接関わることは無かった。
だから、この5月になってSOSが届くまで、失礼ながらM町長の窮地は存じ上げなかった。
2年前の選挙に重大な不正行為があり、即座に引責辞任したものの、その不正を生んだ町の体質を改革するために自らの訴追を含めて再立候補したところ、僅差で当選を果たしたのが1年前のこと。
だが、非難の声は鳴りやまず、役場の士気も下がり退職者が1割に届くと言う。
課題が山積する町長の補佐役に「不可欠なはずの副町長」は、火中の栗と揶揄される。
この「必要な手助け」を誰もやらないのなら、僕は喜んで引き受ける。
「必要なのに誰もやらないことをやる」まさに「(株)なのにの出番」だと思った。

それでは一体何をしたいのか。
僕がやりたいのはM町長を手伝うこと。
M町長はあくまで副町長としてのサポートを望んでいるが、もしそれが叶わないのなら僕はどんな役職でも構わない。
副町長不在の問題に対し、ただ否決するだけの議会や、それを正そうともしない人々に対し、僕は黙っていられない。
こうした人々に言い返せないことこそがM町長の課題であり、僕が初めにやるべきことは、その手助けではないだろうか。
だから僕は、議会に可決させるためにできることを、提案する。
否決の理由を突き止めて、まずは否決を否定することから始めよう。

早速、選任動議が否決された町議会の録画(youtube)を見直した。
採決前の否決意見を聞くと、その理由は松村が不適任だからでなく、適否の判断ができないからだという。
なあんだそんなことか、と僕は思った。
「松村がだめ」でなく「松村で良いと言えない」と言っているにすぎないからだ。
そこで即座に思い付いたのが、「最悪でも松村、できれば松村以上の副町長をみんなで探す」というやり方だ。
副町長は町民や議会の選挙で選ぶのでなく、町長の推薦を議会が承認すればいい。
ならば、みんなから募った候補者から数名の候補者を選んで、みんなで質疑応答を経て採点し、その中から町長が一人を選んで議会の承認を求める。
このプロセスをすべて開示することで、みんなが意見を言えるようにする。
僕の言う「手伝い」とは、「意見を言う」に他ならない。

僕はさっそく簡単な企画書(要領)を作成し、9月2日(否決の翌日)M町長に提出した。
町民の自薦もしくは他薦により候補者を募ると同時に、選考委員も募る「公募公選方式」の提案だ。
議会にとどまらず、広く町民や町職員を巻き込んで、適否を判断すればいい。
もちろん僕はM町長の推薦を受けて応募する。
そうすれば、「最悪でも松村、できれば松村以上の副町長をみんなで探す」ことは、間違いなく実現するだろう。

最後に一点付け加えたい。
M町では先日、K議員による新たな不祥事が発覚したが、今度もM町長の時と同様に、選挙人名簿の取り扱いに関する不正行為だ。
不正を憎み、正すことは大切なことに違いないが、それを痛感し切実に願うのは、不正を行った本人だと僕は思う。
すでにM町は、不正の責任を取って辞任したM町長を再当選させて、この重責を当事者に課すことを選んでいる。
倒産経験で開眼した僕にとって、罪と人を分割して、罪人に町の再生を託すこの町を心の底から賞賛したい。
そして、その取り組みを妨害するのでなく助けることで、この町が輝くところを見てみたい。