目先の成功や失敗より、永く継続することにこだわる僕の原点は、経営していた建設会社の倒産経験であることを折に触れて語ってきた。
自他ともに認めていたはずの優良企業のステイタスが、メインバンクの破たんによってもろくも崩壊することで「成功には終わりがあること」と、その後の破綻処理と新会社立上げを通じて「失敗では終われないこと」を思い知った。
2004年の開業直後に経営母体が破たんした廃校活用プロジェクト「IID世田谷ものづくり学校」の立て直しと独立分社化を頼まれたのは、そんな経験を見込まれてのことだろう。
この2つの経験は、僕にとって決して「手柄や実績」などでなく、感謝すべき大きな学びとなった。
だから僕が「この経験を語る」のは、自慢やひけらかしでなく、むしろ役割や義務だと思っている。
そこで今日は、IIDでの最大の学びについて、スウェーデンからの訪問者から聞いた「起業と社会」について話したい。
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僕がIIDの校長として周囲に認知されるようになったころ、スウェーデンのダーラナ地方にある「レクサント起業大学」のご一行が視察にやってきた。
彼らの目的は、日本国内の優良な「起業大学」と連携することで、いろいろ探した結果IIDに興味を持ったというのだが、IIDは学校組織ではないので学生の受け入れや単位交換などは無理であり、丁重に辞退した。
落胆した彼らは、そもそも日本には起業大学と思われる機関が見当たらないことに驚いたというのだが、こちらにしてみればむしろ「国立の起業大学」という存在に驚いた。
そんな意見交換をしているうちに、僕はひょんな疑問に気が付いた。
それは、日本語の起業と、スウェーデン語の「entreprenör」は、本当に同じ意味なのか。
すると、レクサント大学の校長先生が面白い話をしてくれた。
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人生は「日常と非日常」でできていて、普段は同じことを繰り返す「日常」を生きるが、それだけでは行き詰ってしまうので週末など「非日常」で休んだり遊んだりする。
だが、人生のうち幾度か「日常と非日常」の組み合わせそのものが行き詰り、変化しなければならなくなるが、これを「起業」という。
そこですかさず僕は「それは例えば引っ越しのようなものですか?」と尋ねると、「その通り、他にも結婚、出産、就職、離婚、転職、死別などたくさんある」と笑って答えてくれた。
この話を聞いたおかげで僕は2つのことに気が付いた。
1.起業とは、業に限ることでなく、人生の変化を起こすあるいは受け入れること。
2.起業とは日本語であり、世界と同じ意味とは限らない、ビジネスだって「仕事」でなく「忙しいこと」を意味している。
いや、「気づき」というより、「思考の開放」と言えるだろう。
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レクサンド起業大学は、スウェ―デン中部の「スウェ―デンの心のふるさと」といわれる、風光明媚なダーラナ地方の主要都市レクサンド市に位置する実務教育型のカレッジ。
学生は、若者のみならずシニア世代まで幅広い年代、経歴に及び、教育分野も工芸クラフト、IT、デザイン、ファッション、旅行、外食、アート、社会起業など多岐にわたる。
これをスウェ―デンのグローバル企業IKEA、H&M、CLAS OHLSONなどや、商工会議所など経済団体が支援する、人生何度でもやり直しのできる複線型社会・スウェ―デンを象徴するユニークな大学だ。
今にして思えば、この日を境に僕は「言葉に対する自分の理解」を、全て疑うようになった。
周囲の人と同じ理解に甘んじたり、誰かの説明をうのみにしていないかと必ず自問し、自分で理解できなければ必ずググるか辞書を引く。
疑問に思い、考えることでその言葉を忘れなくなり、頭の回路が活性化するのを実感した。
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ちなみに最近、スウェーデンの中学校社会科の教科書「あなた自身の社会」を読んで感動した。
大見出しだけ紹介すると・・・
第1章法律と権利:私たちの法律、犯罪、警察、裁判所、無益な暴力、犯罪者校正施設。
第2章あなたと他の人々:グループ、なに者かでありたい、役割と役割間の葛藤、私たちには自分で思っているより能力がある、女の子と男の子、若者とアルコール、若者と麻薬、建設的な生き方があり、様々なフォレーニング。
第3章あなた自身の経済:家族の経済、物を買う、消費者情報、クレジットで物を買う、広告は購買意欲を誘う。
第4章コミューン:やってみることが大事だ、様々なコミューン、コミューンの組織、コミューンが立てたある計画、コミューンの予算、コミューンにおける民主主義、教会コミューン、ランスティング。
第5章私たちの社会保障:スウェーデンの子どもたち、児童福祉、家族での生活、離婚、病気になったら、たくさんの障害者がいる、仕事を失う人もいる、特別な援助が必要なこともある、老人になる、社会的安全のネット。
目次を見ただけで、我が国の受験用暗記学習と全く違うことがわかるので、興味のある人は、一読を強くお勧めする。
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という訳で、今の僕のざっくりまとめ。
「起業=周囲に対して新しいことをやること」で、「創業=自分にとって新しいことをやること」だと判った。
そして、「継続すること」は「起業を繰り返すこと」という答えに辿り着き、僕自身の取組がすべて繋がっていることを確信した。
そして、社会に終わりは必要ない・・・そのために、僕たち自身が地域の主になる「地主の学校」を刊行した。
次にやることは、地域社会での実践だ。
そのための教科書「私たち自身の社会」を目指して、スウェーデンの教科書を大いに真似たいと思う。