50年の放ったらかし

先日テレビのニュースで、「去年の国勢調査で、東京都内では1世帯当たりの人数が初めて2人を下回り、1.95人になった」と報じられた。

5年に1度の国勢調査は、膨大な情報の集計作業の前に膨大な検証作業が伴うため、発表までにはかなりの時間を必要とするのが通例だ。

この報道自体にも興味をそそられたが、僕にとってはそれ以上に「結果発表が始まった」という知らせに聞こえた。

そこで早速、総務省統計局の「令和2年国勢調査 調査の結果」ページにアクセスすると、

https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka.html

速報集計として「男女別人口及び世帯数の早期提供」が6/25付で公表されていた。

ここに掲載されているのは次の4項目だ。

Ⅰ 全国の人口(我が国の人口は1億 2622 万7千人、2015 年に引き続き人口減少)

Ⅱ 都道府県の人口(東京圏(東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県)で,全国の約3割を占める)

Ⅲ 市町村の人口(全国 1,719 市町村のうち,1,416 市町村(82.4%)で人口が減少)

Ⅳ 世帯(我が国の世帯数は 5572 万世帯、1世帯当たり人員は 2.27 人で引き続き減少)

まず、Ⅰ~Ⅲが「人口に関する集計」であることは、国勢調査の結果として頷ける。

問題は、今回報道にも取り上げられた「Ⅳ世帯」が、人口の次に重要な位置づけをなされているということ。

報道内容だけでなく、()内のコメントでも「1世帯当たり人員の減少」が強調されているが、資料のグラフをよく見ると、問題の核心は全く別のところにある。

まず、紹介した「世帯数及び1世帯当たり人員の推移」というグラフを見てほしい。

右肩上がりに増加する棒グラフは全国の「世帯数」の推移を示していて、今回の調査値が右端だ。

そして、右肩下がりに減少する折れ線グラフが、上記の世帯数をその年の人口で除した「1世帯当たりの人員」で、こちらも右端が今回数値を示している。

つまり「世帯」という概念について、「世帯数」と「1世帯当たりの人員」という2つの指標で説明しているのだが、先述の通り後者はⅠ~Ⅲの「人口」を「世帯数」で除した値なので、ここで肝心なのは「世帯数とは何か」ということになる。

世帯の定義については、一般世帯と施設などの世帯に分けられる。

まず、一般世帯とは、
1.住居と生計を共にしている人の集まり又は一戸を構えて住んでいる単身者(ただし,これらの世帯と住居を共にする単身の住み込みの雇人については,人数に関係なく雇主の世帯に含める。)
2.上記の世帯と住居を共にし,別に生計を維持している間借りの単身者又は下宿屋などに下宿している単身者
3.会社・団体・商店・官公庁などの寄宿舎,独身寮などに居住している単身者

そして施設等の世帯とは、
寮・寄宿舎の学生・生徒の集まり、病院・療養所などにすでに3か月以上入院している入院患者の集まり、老人ホーム・児童保護施設など社会施設の入所者の集まり、自衛隊の営舎内又は艦船内の居住者の集まり、刑務所及び拘置所など矯正施設の入所者の集まりが、「世帯の単位:建物ごとに1世帯」とするのに対し、
定まった住居を持たない単身者や陸上に生活の本拠(住所)を有しない船舶乗組員などは、「世帯の単位:一人一人」としている。

こうして全体を俯瞰すると、世帯数を増加させる要因としては、次の2つが考えられる。

まず一般世帯においては、1.の「同居している人の集まり」が分解する場合。

そして施設等の世帯では、最後の「定まった住居や拠点を持たない人」が発生する場合だろう。

「世帯数の草加」とは、上記2つのケースが増え続けていることを意味している。

さらに言えば、住居数の増加を支えているのは、ほとんどが前者の「家族の分解」と考えられ、これが住宅ニーズを下支えして、結果的に空き家の増加を支えている。

だが、この報告では、こうした議論に触れることなく、この世帯数を人口で除した「1世帯当たりの人員」にフォーカスし、東京都でその数値が2.0を下回ったことを報じている。

その結果わかることは、東京都内の一人暮らしが50%を超えたこと。

確かに区切りの良い象徴的な出来事かも知れないが、それ以上の意味はない。

むしろ問題は、世帯数が増え続け、同居家族の人数が減り続ける勢いが一向に衰えないことではないだろうか。

もしもこの変化が望ましい変化なら、これは喜ばしいニュースかも知れない。

なのに、そうでないとするならば、すでに50年以上にわたって放置されたままだと言える。

目先の数字に一喜一憂するのでなく、大きな流れに目を向けられるようになったのを、年を取ったおかげなどと済ませてはいられない。

今日はそんなことを思った。