緊急事態宣言を聞いた時、僕は21年前・1999年6月12日に東京相和銀行が破たん認定された日のことを思い出した。
この時僕は、父から受け継いだ建設会社の社長になって3年目で、まだ実権は会長となった父のもとにあった。
父は東京相和銀行のオーナーと長年の友人で、会社も東京相和銀行をメインとしており、銀行の破たんについても事前にある程度察知していたようだ。
でも当日は、呆然と立ち尽くしていたので、僕が銀行を見に行ったことを覚えている。
それまで、銀行紹介の顧客には当社が採算度外視で奉仕する代わりに、運転資金が足りないときは電話一本で対応してくれた。
この日を境に、当社と銀行の蜜月関係は消滅した。
・
1週間ほど経過すると、破たんの影響が具体的に見えてきた。
1つ目は客離れ
建築は高価な買い物なので、施工会社の経営基盤は気になるのは当然だし、建設に伴う融資銀行が横やりを入れて別の会社を推薦した。
2つ目は下請け離れ
メイン銀行が潰れ客足が遠のけば、やがて倒産してしまうことを下請けはよく知っていた。
そして3つ目は資金繰り
新規受注が減ることで入金が減り、7月の中旬にはすでに資金がショートしてた。
「これまでの資金ショートは、すべて銀行の融資で乗り越えてきたので、その銀行が破たんしたのでは成す術もない」という経理部長は、もう宛にならない。
僕は、土地や有価証券など「金目のモノすべての売却」を指示したが、土地は銀行の担保に入っているし、高額なゴルフ会員権はお得意様で手放せず、大した現金は作れなかった。
・
6月下旬給与を払うと、次の手形は決済できず不渡りとなってしまう。
そこで僕は覚悟を決め、お得意様のAKカントリークラブに行き、ゴルフ会員権の買戻しをお願いした。
僕をかわいがってくださる会長さんは、必ず会社を継続することを条件に応じてくれたが、その時僕の中で何かが変わった。
それは、会長さんが僕に要求する「継続」という言葉の重みというか真実だ。
僕はこの約束を果たすため、会社を「潰さない」継続でなく、「潰してでも」継続する覚悟を決めた。
そしてまず、すべての発注者や下請けなどの取引先に対し、僕は自分の会社の「倒産予告」を発信した。
そして、会社の現状説明会を開催し、お互いの損害回避のためあらゆる提案・措置・お叱りを受け入れると宣言した。
こうして僕の倒産劇がスタートした。
・
振り返ってみて気づいたことは、銀行破たんの緊急事態を受けて、自分自身が緊急事態を迎えたことだ。
日本政府の緊急事態宣言を受け、僕たち自身が緊急事態を迎えたことを忘れてはいけない。
この宣言を受け、社会は新型コロナウィルス克服に向け、とにかく新たな一歩を踏み出したと思うなら、僕たち自身もそれぞれが緊急事態を宣言し、自分の一歩を踏み出す時だ。
先ほどフリーパートナーのSさんから、自分が賃貸しているスタジオがコロナでレッスンできないのに、シェアメンバーから賃料を請求すべきだろうかと相談を受けたので、下記のアドバイスをした。
- この状態が少なくとも数ヵ月続くと思って収支を試算して、自分がどこまで持ちこたえられるか見極める。
- そしてまず、自分自身の賃料の免除や延納を要請し、だめなら滞納を検討する。
- また、シェアメンバーに対しても、同様のアドバイスをし、まずは延納を認める。
- これらを整理して、現時点での「緊急事態宣言」にするとよい。
・
日本における緊急事態宣言は、地域社会が緊急事態であることを宣言することであり、それ以上のことではない。
これに対し、保証や強制力を求める意見が噴出しているようだが、肝心なことはまず、この宣言と自分自身との関係を見極めることだ。
少なくとも、自ら事業を行い、自分を含めそれをあてにしている人がいるのなら、外出できず、仕事ができないからと言って、ふてくされている場合ではない。
あなたもぜひ、あなた自身の緊急事態を整理して、関係者の皆さんに宣言することをお勧めする。・
たとえ救済のお金をもらっても、お金は他人に何かを頼むサービス券に過ぎない。
コロナを乗り越えるだけでなく、その先も含め、自分には何ができて、何をすべきなのか。
あなた自身の「緊急事態宣言」を作る、絶好の機会だと僕は思う。
そして僕の宣言は、「どんなご相談でも大歓迎」だ。