都市農業の特殊解

都市農業とは、都市と農業が同居する状況の総称だが、そもそも都市と農業の関係性は極めて多岐の分野にわたるため、議論の全体像は掴みにくい。
そこで今日は、都市と農業の関係について、ざっくり把握に挑んで見よう。
まず、都市は「人口集中」を、農業は「耕作」を意味するので、都市では社会活動が、農業では作物の生産性が追求されるのは明らかだ。
だが一方で、両者は自然に対して、その利便性や効率を追求するために抗うと同時に、持続や存続を図るための共存を目指すことで共通する。
また、都市と農業は、耕作を営むことで存続してきた人間社会が兼ね備えていた2つの機能が分化して、相互に依存し補完し合う関係だ。
グローバル化が進む現代社会では、この補完関係も国際化が進み、地域の紛争や異常気象が世界に影響を及ぼすようになっている。

わが国の土地利用において、「都市と農業」は地目上「宅地と農地」で明確に区別される。
さらに、宅地は住宅用と非住宅用で構成され、国交省が管轄する都市計画法(都計法)に基づく「都市計画区域」として、農地は「田と畑」で構成され、農水省が管轄する農業振興地域の整備に関する法律(農振法)に基づく「農業振興地域市街化調整区域」として管理されている。
だが、そもそも農振法とは、建設省(現国土交通省)が都市計画法により農地にゾーニング規制をかけたのに対抗して、農林水産省が作った法律だ。
その結果、農地に関しては、用途の指定を行う農振法と個別の開発を規制する農地法とが相互に関係する上に、都市部においては、都市計画法が定める「市街化(線引き)」とも関連する極めて複雑な法体系になってしまった。
ここではその詳細は述べないが、都市計画区域内に「農地」という用途は存在せず、農地もしくは緑地として保全すべき「生産緑地地区」があるだけだ。

生産緑地の主な要件は次の4つ。
1.農林漁業などの生産活動が営まれていること、または公園など公共施設の用地に適していること。
2.面積が 500m2以上であること(森林、水路・池沼等が含まれてもよい)。
3.農林漁業の継続が可能であること(日照等の条件が営農に適している等)。
4.当該農地の所有者その他の関係権利者全員が同意していること。
確かに、1の生産活動継続や、4の関係者の合意形成などを確保することが重要であり、その取り組みが様々行われつつある。
だが、たとえすべてを充足しようとも、その土地の農業者以外への譲渡は認められない。
生産緑地はすでに農地では無いはずなのに、その優遇は農業者だけに与えられた「農地の特権」にほかならず、その特権を相続しなければ生産緑地はただの宅地となってしまう。

結局、税制特権を目的とした農地の存続は、相続の継続無くして実現しない。
我が国の土地所有権とは、固定資産税相当の賃料を負担する賃借権に等しいので、相続は所有者死亡時の名義書き換え手続きだ。
書き換え料に相当する相続税は相続財産の総額から算出されるが、法定相続人が複数いる場合の分割が問題だ。
被相続人は、相続の配分について遺言で指定することができるが、相続人は遺留分を主張できるため、相続人同士の争いが頻発する。
農地の継承を相続から解放するため、法人が農地を所有する道を模索したが、「農地所有適格法人(農業生産法人)」は農業従事者が50%以上持ち分を支配する法人とされる上に、血縁者以外が新規に「農業従事者」になるためには農業委員会の許可が必要となるため、行き詰る。
これほどまでにがんじがらめの制度に参入することが、農業にとって必要なのだろうか。

そもそも、農地を耕作して作物を収穫することが、本当に農業なのか。
農業とは、農作物の生産販売により収益を得ることであり、耕作はその一部に過ぎない。
かつて年貢制だったころは、確かに作物を納品すれば事足りたが、現代の農家はすでに農業の担い手ではない。
むしろ、耕作や農作業の新たな価値を創出する起業に挑むべきだと思う。
そこで僕は、生産緑地の恩恵にすがるのをやめ、市街地内の農地や緑地の新たな経営を提唱したい。
そのためにはまず、逃れることのできない土地の所有コスト=固都税(固定資産税1.4%+都市計画税0.3%)を試算する。
市街地なので、市価=200万円/坪とすると、固定資産税評価額はその70%とされるので、200万円×70%×1.7%÷12か月≒2千円/月となる。
200㎡ごとに1世帯の住宅があれば小規模宅地として固定資産税は1/6、都市計画税は1/3となるので、200㎡(約60坪)の土地で試算すると、200万円×60坪×70%×(1.4/6+0.3/3)%÷12か月≒2。33万円となる。
そして、宅地として200㎡を超える部分については、建物面積の10倍までが2倍の税額となる。

これが僕の提案する都市農業の基本形。
200㎡ごとに区画した農地に利用者負担で20㎡以上の住戸を建てる前提で土地を利用するなら、建設後は1区画当たり2.33万円の負担で事業が成立する。
農耕や緑地に適した60坪の土地に、自分で小さな家を建て、畑を耕しながら周囲の仲間たちと村づくりをする会員制のプロジェクトが、都会の中で実現したらどうだろう。
都市農業とは、全体として分化が進んだはずの都市と農業が、いまだに同居あるいは近接する状況を言う。
そこには、相互の存在を脅かす迷惑な要因が存在するのは当然だが、相互の補完関係が失われていく危機感も顕在化してきた。
ある意味で、都市と農業の関係を象徴する縮図と考えてもよいだろう。
そこで僕は、都市農業における課題や、その打開策のいずれもが、一般解である必要などなく、極めて特殊で極端な事例で良いと考える。
また同時に、それらの特殊解の中には究極のヒントや答えが含まれていて、都市と農業の関係が目指すべき未来を垣間見ることも期待できるのではないかと思う。