所属のプライド

笑恵館アパートに暮らす住人と話していると、何かプライドや自負のようなものを僕は感じる。

彼らは笑恵館の会員として施設全体を自由に使うことができる反面、月に一度の食事会への参加が義務付けられ、半ば家族のような人付き合いを要求される。

でも決して家賃分のサービスを要求するだけの単なる顧客でなく、クレーム以上の提案を投げかけてくれる。

それに対し、僕たち運営サイドも可能な範囲で対応し、更なる提案でお返しする。

笑恵館という暮らしの場をよくするための真剣勝負が、日々繰り返されていると実感する。

この感覚は、以前世田谷ものづくり学校の校長をしていた時にも、体験したことを思い出す。

世田谷区から借り受けた廃校を面白い空間にするために、入居希望者に次の3つを要求し審査した。

  1. 世田谷ものづくり学校に入居する貴社のメリットは何かを説明せよ。
  2. 貴社の入居による世田谷ものづくり学校のメリットは何かを説明せよ。
  3. 入居後に一般来館者に公開する業務内容と、年に一度以上開催するワークショップを説明せよ。

普通賃貸オフィスビルに入居する際、これほど面倒な審査を受けることはない。

だが、これに立ち向かうテナントこそが施設の魅力を高め、僕たち運営者をも鍛えてくれると考えた。

その結果、入居者たちは要求にこたえるだけでなく、様々な要求をしてくるようになった。

しかし、対外的には施設を称賛し、そこに所属するテナントのプライドを感じさせてくれた。

昔、安藤忠雄の「住吉の長屋」という住宅が建築学会賞を取ったとき、屋根のない暮らし辛い粗末な建築という非難を浴びたが、「それを見事に使いこなす建築主(住人)を評価する」という審査コメントに、僕はいたく感動した。

建築は、建築家のためでなく、使う人のために有るはずだ。

建築家でなく、建築主が評価される建築こそ、「本物の建築」だと僕は感じた。

その後縁があって僕は安藤さんの作品を2件施工したが、いずれの建築主もじゃじゃ馬のような安藤氏と戦いながら建築を作るプライドを感じた。

安藤氏が、あれほど傲慢で図々しく見えるのは、依頼者のプライドを大切にするからだ。

それは施行者として対峙した僕も同様だ。

決して上から目線でなく、対等の立場で殴られかけたこともあった。

笑恵館や、世田谷ものづくり学校と安藤忠雄を比べるのは、いずれも対等な勝負をしているから。

お金を払う側ともらう側に上下関係はなく、むしろ対外的なメリットを追求するために競い合う仲間のような関係だ。

相手を見下したり、自分を卑下(ひげ)するひまはない。

プライドとは自尊心のことで、自尊心とは「他人からの評価ではなく、自分が自分をどう思うか、感じるか」を指す。

結局この勝負に勝ち負けはなく、そこには自ら戦いに挑み続けることで自分を高めている自負があるだけだ。

だが、この自負は何かに所属することで共有し、さらに高めることができると思う。

土地や施設、地域など、場所はまさに所属先であり、場所の価値は所属する人たちの価値を指す。

富士山の素晴らしさとは、その形を美しく感じたり、そこで心を清める人々の素晴らしさだ。

自分の住まいや職場を、人に自慢し、人を招くことこそが、場所の価値を示している。

閉じたまま、人を受入れない場所など、社会的には無いに等しい。

施設や地域の活性化とは、こうした「所属の価値」を高めることでは無いだろうか。