昨年、世田谷区砧で全182個の大型マンションが分譲された時、僕が運営する笑恵館にデベロッパーの広報担当者が訪れ「地域の魅力」として紹介させてほしいと言うので、取材に応じることにした。
その後、オーナーの田名さんが取材を受け、竣工した現在でも地元のキーパーソンとして周辺環境のページ内で紹介されている。
https://wellith.jp/kinuta/voice06.html
取材されたときには、笑恵館が「地元の魅力」と扱われることを嬉しく、光栄に感じたことを覚えている。
だがその後、マンションの紹介サイトを見た時に、この巨大マンション自身の魅力がどこにも見当たらないことに気付いた。
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もちろん第一に重要なのは、住戸内の環境や設備、広さや価格、駅からの距離など住居そのものに関する条件だろうが、もしもそれらが同等なら大切なのは周辺環境だ。
誰しも自分の好きな環境で暮らしたいと思うのは当然だ。
うるさくても都会が好きな人がいれば、不便でも田舎が好きな人もいるし、暖かい所や寒い所など、人の好みは様々だ。
そして、人間関係も大切な周辺環境であり、笑恵館のオーナーがキーパーソンとして紹介されるのはその表れだと僕は思う。
だが、一時的に生活する賃貸ならまだしも、永続的に暮らす分譲住宅が、こんなことでいいのだろうか。
自分自身もまた、周辺環境の一部分となる自覚は無いのだろうか。
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僕はもともと建築屋なので、マンション分譲の経験もあり、これまでこんな疑問を持つことはなかった。
でも今回、自分たちが紹介されることにより、「地域の魅力」の意味を問い直すことになった。
「地域の魅力」とは、地域外の人を引き寄せるだけでなく、地域内への定着を促す要因でもある。
何の魅力も無い地域から人々が離れていくとしたら、魅力は地域存続に欠かせない。
だとすれば、その地域に魅力を感じる人こそが、その魅力を守っていく必要があると思う。
ところが、その魅力で集客するマンション自体が、地域の魅力を担わないのはどういうことか。
マンション住民は、タダの客か、見物人か。
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恐らくほとんどの人が、地域の魅力づくりを、自治体の仕事だと勘違いしている。
そして多くの市民たちが、自治体のまちづくりを熱心に手伝っている。
だが、自治体の目的は地域の存続でなく自治体自体の存続だ。
確かに戦前までは天皇を担いだ政府が臣民を支配していたが、もはや国民主権の民主社会だ。
すでに自治体は合併を繰り返し、地域社会は消滅し続けている。
地域社会の魅力づくりは、僕ら市民が自分でやるしかない。
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ビジネスは地域も国も越え、グローバルに広域化している。
地域の魅力を技術や仕組みで作っても、すぐに真似をされ追い抜かれる競争社会では継続性の決め手にはならない。
恐らく、地域の魅力を守り育てたいと願い取り組む人々の心しか、拠り所はないだろう。
だがそれは、決して悲観的な議論でなくむしろ朗報だ。
私たち自身が地域の魅力となることこそが、地域を担うことに他ならない。
僕自身はもちろんのこと、笑恵館アパートの住民たちにさえ、その自負を感じる。
地域の魅力に惹かれて入居する入居者でなく、地域の魅力を担う入居者たちが集うアパートを作ることが、国づくりだと僕は思う。