11月のさくまさんち・まったりカフェで、ご近所の日大商学部の学生を迎えて「西方見聞録」というイベントを開催した。
日大生H君とは、僕が審査員を務めるチャレンジアシストプログラム(Bunb開催の若者助成事業)に応募して採択されたのがきっかけで知り合ったのだが、その後学校のご近所ということで笑恵館に遊びに来るようになった。
さくまさんちの取り組みを知ると、さっそく友達を引き連れて来てくれて、世界激安ツアー探検隊の話題で盛り上がるうちに、今回のイベントを思いついた。
せっかく旅をするのなら、そこで見聞きしたことをみんなに話して聞かせて欲しい。
そんなことを意識しながら旅をするのも大事なことだ。
そして開催にあたっては、「イベント名」と「キャッチコピー」を考えて、たとえささやかでも事前告知をし、一般参加者を募ってみよう・・・という僕の提案に、彼らは真正面から答えてくれた。
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当日は告知の甲斐あって、数名の大人が参加して下さり、いよいよ報告会が始まった。
ある日、3人の仲間が食事をしながら急に旅行を思い立ち、その日のうちにチケットを予約してしまうところから話は始まるのだが、3人の目的は見事にバラバラで、とんちんかんな計画作りが迷走する様子は、大人たちに大ウケだ。
はじめは何の話をしようかと戸惑っていた彼らも、何を言っても喜ぶ大人たちを見てすっかり自信を持ったのか、話はいちいち脱線し、イギリスにたどり着くのに小一時間かかってしまった。
結局3時までの3時間で、ようやく前半のイギリス編が終了し、後半のイタリア編は日を改めて開催することとなった。
でも、参加者の皆さんは大満足で、次回開催を楽しみに、この日は散会した。
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H君は魚が好きで、観光の中心は水族館、自由行動の日は日本人女性が働いているという魚屋を訊ね、イギリスの魚屋さん事情を鋭く解説してくれる。
また、3人で食事をする際には、メニューに出てくる魚の英名をきちんと読めるので、注文の際は心強かったと友人は語る。
その友人はプログラミングに興味があり、自由行動の日は書店で専門書を買いあさったそうだ。
彼が中心になって航空機やホテルなどの予約はもちろんのこと、バスの時刻表やレストラン探しまで常に事前確認し、クレジットの前払い決済に徹したという。
そして、もう一人の友人は飛行機オタクで航空ルートや会社はもちろん、機種にまでこだわるチョイスをし、エミレーツ航空のエアバスA380に乗れたことが最大の喜びだとか。
バラバラの3人がそれぞれ願いを叶える話を聞いていると、3倍の願いを叶えた喜びが伝わってくるのが、実に心地よい。
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彼らの話で特に印象深かったのは、「挨拶」の話だ。
ロンドンのお店や施設に入るとき、スタッフが先に声をかけるのでなく、来訪者が先に「ハロー」とか「ハイ」と声をかけるのだという。
そして出ていく時はスタッフの方から「どうだった?」、「楽しめた?」などと声がかかり、これに対して客の方が「ありがとう」と答え、最後にスタッフが「またね!」と見送るのだそうだ。
初めは何を言っているのかよくわからなかったが、実際体験するとことごとく日本とは逆なのでそう感じたのだという。
そう言われてようやくわかった気がした。
つまり、日本ではお店に入るとまず「いらっしゃいませー」と声がかかり、最後は「毎度ありがとうございますー」と見送られるが、お店のスタッフと心が通じたと感じるわけではない。
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そもそも、礼儀やおもてなしとコミュニケーションは別物だ。
おもてなしがコミュニケーションを阻害するわけではないし、コミュニケーションがあればおもてなしが不要なわけでもない。
だが、H君たちがロンドンのお店でのこうしたやり取りで感じた違和感は、知らなかったものとの出会いであり、それは日本で感じられなかったものだ。
日本のお店で交わされる言葉に感じられなかったものを、ロンドンでひしひしと感じたということだ。
考えてみると、これはとても面白い。
彼らは決して英語の機微がわかるほど堪能でないのに、なぜこんなことに気付くことができたのか。
それは、外国にいることで感性の感度が高まっていたのかもしれないが、もしかすると言葉だけでなく表情やしぐさなど誰にでもわかることから感じ取ったのかもしれない。
それは言葉の壁を超えた普遍的なこと、むしろ世界の常識と言えるかもしれない。
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その時、誰ともなく「そういえば、笑恵館はそうだよね」と言い出した。
「笑恵館はお店じゃないからね」と、誰かが続けた。
確かに笑恵館では、誰も「いらっしゃいませ」とは言わない。
ふらっと来た人が「こんにちはー」とドアを開け、そこに居合わせた人が「何の御用ですかー」と優しく尋ねる。
それを僕らは「お店じゃないから」と理解していたが、今回彼らの話を聞いて、むしろこれこそが「世界一般のお店」なのかも知れないと僕の頭の中でポチッと小さな音がした。
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大学生の西方見聞録は、次回「イタリア編」ということで、また日を改めて開催したいと思う。
それにしても、成田からロンドンに行くたった4日間の話をするのに3時間もかかって一番驚いているのは当の本人たちだ。
それも、人気スポットの話でなく、現地の当り前に驚いた発見や気づきの話ばかり。
それはきっと、好奇心を持って聞いてくれた大人たちのおかげだろう。
彼らにとって、親よりも年配の大人たちが、友達のように話を聞いてくれたのは、驚きだったかもしれない。
でもこれこそが、現実社会の面白さだ。
丁寧なおもてなしの心地よさでなく、相手を知り自分を伝えたいと願うコミュニケーションが大切だ。
面白がる心が社会を面白くするんだ、と僕は思う。