地図を作ろう

先日訪ねた西武線飯能駅の改札脇にある観光案内所「ぷらっと飯能」は、飯能観光協会の出先施設だ。

ここには様々な観光マップが備えてあり、スタッフの人が親切に説明してくれる。

だが、よく見るとどれも似たような内容で、その目的や範囲の違いごとにデザインが異なるだけで、現地ならではの情報は一つも見当たらない。

でもこれは、ここに限った話ではなく、日本全国ほとんどの案内所が似たような状況だ。

具体的には、「役所が作ったもの」「商工会や商店街など地域団体が作ったもの」「地域団体に所属する企業や団体が作ったもの」の概ね3種類の地図がならんでいる。

しかしこれでは、訪問者が一番知りたい「本物のオススメ情報」が抜けている。

だがそれには、どうにもならない訳がある。

観光案内所の多くは、役所や地域団体など公的な団体が運営しているが、ここで言う「公的」とは、所属するすべての構成員に対し「公平」でなければならないという意味だ。

例えば商店街の作る地図にはすべての加盟店が公平に掲載されているが、どんなに有名でも加盟していない店は掲載されない。

役所の地図になるとさらに面倒で、誰からも不平が出ないことしか掲載されることはない。

破たん直後の夕張市に行ったとき、現地の観光地図には夕張市の経営する施設しか掲載されておらず、質問すると「市営施設の宣伝が優先」ときっぱり答えた。

だが無理もない、製作者が自分のために作るのは当たり前のこと。

あくまで自分たちの内部に対する公平であり、外部に対しては極めてわがままなのが実情だ。

しかし、訪問者は外部の人。

そんな身勝手な地図とはつゆ知らず、客観的で正しい情報と勘違いしている。

地元では見向きもされない店が、地図やガイドブックでは名店となっている。

公的な地図は、自画自賛のお手盛り情報だということだ。

それは、インターネットも同じことで、一見客観的な口コミ情報もすでに怪しい。

これでは「どこの店も全部おいしい」ということになってしまい、結局どこに行けばいいのかわからない。

観光スポットも、イベント情報も、どれも良いことしか書いていないので、まるであてにはできない。

窓口の人に「どこがおいしいの?」と聞くと、みんな困った顔をする。

そんな中、「私の好みで言えば…」とオススメを教えてくれる人に出会うと、とても助かる。

知りたいのは、「誰もが美味しいという無難な店」ではなく、「私ならこの店がオススメ」という個人の意見だ。

しかしそれにも限界があり、地図にも載っていない店を紹介するわけにはいかないだろう。

まさか、商店街の案内所で、加盟していない店を進めるわけにもいかないはずだ。

だから僕たちは、自分で地図を作る必要がある。

必要なことが書いてあるのが地図ならば、誰にとって必要なのかが重要だからだ。

シェア奥沢のHさんから見せられた東京サイクルマップには高速道路が消えて、等高線が書いてあった。

自転車乗りに必要なのは、通れない高速道路より、その下の川や橋、そして坂や段差の情報だ。

笑恵館にある近隣マップには、笑恵館への道順と入手できない品を扱うお店が書いてある。

駒沢ドッグストリートの地図には、犬を連れて入れる店とそうでない店を色分けした。

砧むらOBKのマップには、参加者の家が明示されている。

自分のための地図を作ることが、自分のための世界をイメージすることになると思う。

そして互いが自分の地図を見せ合って、一つの地図をシェアできる仲間になればいいと思う。

地図は、世界を歩くための案内図なのだから、世界の数だけ地図があってもいいんじゃないか。