まちの化粧師

先日久しぶりに、植木職人の工藤さんが自宅に遊びに来てくれた。

彼との出会いは10年ほど前のこと、植木屋修行を終え独立するにあたり、植木屋になるにはどうすればいいのか、僕を尋ねてやってきた。

そこで早速「せたがやソーシャルビジネスコンテスト」に参加するように勧めたところ、「庭でロック」というタイトルで応募してきたので、ご記憶の方もいるかもしれない。

その後工藤さんは「ロックンロールな植木屋」になれたとは言い切れないが、でも持ち前のやさしさとまじめさを武器に、独立した植木職人として実績を積んできた。

だが、そんな彼にも悩みがある。

せっかく仕事の量が増えたのに、一人でこなすには限度があり、人を雇うほどの仕事量をいきなり確保するのは難しい。

このジレンマをどうやって打開すればいいのか、彼はそんな相談をしにやってきた。

そこで僕は、どこのエリアのどんな顧客がどんなきっかけで仕事をくれるようになったのか、もう少し詳しく話を聞いてみた。

すると工藤さんは目を輝かせ、堰を切ったように語りだす。

実は、仕事の大部分は自宅近所の横浜S町で、口コミ紹介の連鎖反応で広がった。

仕事をしているとご近所から声がかかったり、お客さんがご近所を紹介してくれたりという具合。

でも、これって僕に限ったことじゃなく、植木屋稼業って、そういう仕事かもしれない…と。

確かに僕も、工藤さんに自宅をお願いしたところ、カミさんはご近所を紹介していたし、を紹介した。

庭木の手入れとは、たとえ自分の庭木でも、自分の家族のためだけでなく、むしろご近所への配慮や気遣いの方が強いかもしれない。

次に僕は工藤さんに対し、「集まった顧客たちに、庭木の剪定以外に何をしているのか」を尋ねた。

すると彼は目を丸め「剪定以外って仕事以外のことですか?」と言い、「いや、特に何もしていません」と答えた。

やはりそうか、僕は自分の出番がやってきたことに気付き、次のような話を切り出した。

他人から仕事を頼まれる時、それは何のために頼まれたのか、よく考えた方が良い。

仕事をする人はお金をもらうことが目的かも知れないが、仕事を頼む人の目的は決してお金を払うことじゃない。

ましてや、仕事を評価してくれて、ご近所を紹介してくれるのはなぜなのか、それこそが君のビジネスの価値だということを見逃しちゃいけない。

庭木剪定をきっかけに、顧客が何かを見い出して、それをご近所に広めようとしているのでは・・・と、僕ならそう考えるよ。

つまり君は、すでに横浜S町のまちづくりを始めているかも知れないよ。

その後、僕と工藤さんは、飯を食いながら大いに盛り上がった。

確かに植木屋という仕事は、街の美化に貢献するからこそ、ご近所に紹介されていく仕事だ。

だが、多くの植木屋はその役割に気付いていないし、新規参入者は価格競争に明け暮れるばかり。

植木屋の価値を、周囲に勝る庭を作る技術や美的センスだけでなく、ご近所同士の連携を生むことに見い出せば、植木屋ビジネスの新たな発展に挑むことができるかもしれない。

これこそが僕の提唱する「地域作り」であり、それに挑む「地域」だ。

地域とは自分のビジネスが担う舞台のこと。

その舞台で演じるのは、工藤さんでなく顧客の庭だ。

ご近所の皆さんが庭づくりに親しみ励み、競い合うことで、活力ある美しいまちができるとしたら、植木屋さんの仕事は「まちの化粧師」かも知れない。

 

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