今日はチャレンジアシストプログラムの公開審査会に参加した。これは東京都教育委員会とBumB東京スポーツ文化館が主催する助成事業で、若者のグループが初めてのチャレンジとして企画・提案する活動を、ジャンルを問わず支援する取り組みだ。僕は2010年から審査員として参加しているが、毎年多くのチャレンジングな若者と知り合うことのできる、とても美味しいプロジェクトだ。例年20件ほどのエントリーがあるがそれを書類審査で10件前後に絞り、公開審査会=プレゼン大会で即日審査・決定するのだが、若者たちのチャレンジは当然未熟で、申請書類の完成度も低いため、書類審査はいつも、提案内容の優劣よりも審査員の勘や嗅覚が試されている気がする。
今日は残念ながら2組が棄権したため8件がプレゼンに臨んだが、10分前後のプレゼンに対し、審査員がみっちり質問を投げかけるのがこの事業のスタイルだ。特にうるさいのが「もちろん僕・松村」で、すべての発表者に対して猛然と襲いかかる。初めのうちは、こんなことをしていると早晩審査員を首になるな・・・と思っていたが、以外というか有難いことに「説教好きな名物審査員」的ポジションを与えていただき、延べ時間にすれば、確実に誰より長く僕がしゃべっている。そんな中、ついに今日はやらかしてしまったというか、発表者に触発された僕の頭が突然高速回転し、思いついたビジネスプランを機関銃のように発射してしまった。今思い返しても面白かったので、ここに書き留めておきたいと思う。
僕を触発したのは、「88生まれの女たち」というグループで、劇場離れが進む中で「野外劇」で新たな演劇ファンを獲得しようというチャレンジだ。他の案が、比較的真っ向から社会課題に取り組むチャレンジなのに対し、このグループは自分たちの演劇公演に何とか社会的価値をこじつけようとする意図が見え見えなのだが、でも僕は決してそれを悪いとは思わない。むしろ、既成概念にとらわれないマーケティングというか、社会を奉仕活動でなくビジネスのターゲットとして捉える議論を、もっとするべきとすら思う。だが、彼らはまだ若く、戦略はあまりにも未熟だ。そもそも、自分たちの演劇を構築するだけでも一大事業なのだから、それを興行としてどのように組み立てるかを考えるのは至難の業に違いない。
とはいえ、彼らの発表はそれなりの勢いをもって完結したが、質疑応答に入ると、ボロボロとほころびが露見する。会場は廃校の校庭なので、雨天決行を覚悟していること。本当は河原の土手にトラックが走ってくる想定だったのに、許可が下りず校庭になってしまったこと。劇場に客が来ない最大の理由を「高い料金」だと分析しているのに、チケットを3000円で売ろうとしていること。たとえ助成金が満額支給されても、雨が降ったりチケットが売れなかったりして事業が成立しなければ元も子もないではないか…という話になってきた。しかしその時、僕の頭は回り始めた。これらの課題を解決する案を、もっと出せばいいじゃないか。もっと別の可能性や選択肢を上げればいいじゃないか。
まず、雨天決行まで覚悟して、当初のイメージとかけ離れた「校庭」で諦める必要はない。河原で許可が下りないのは、それが興行だからであり、あらかじめ参加者を募って会費を集め、みんなで河原に出かけて演劇パフォーマンスを楽しむだけなら、何の許可も必要ない。そもそも1年に1回以上演劇鑑賞をする人が1%しかいないという現状は、興行ビジネスが下火になったわけではない。現に、これまでレコードやCD販売を主要事業にしてきた音楽業界は、メディア離れを背景にライブ・パフォーマンスを中心とした興行ビジネスに変貌している。演劇興行がうまく行かなければ、別の業態を考えればいいはずだ。「会員制の演劇体験ビジネス」という着想は、自分でも驚く名案だ。
この方式であれば、あらゆる状況での演劇公演が可能となる。例えば、都電荒川線を「貸し切り」すると、そのお値段は一台13,820円。早稲田−三ノ輪橋間の約50分の乗車時間で演劇公演を行えば、会場費はそれで済んでしまう(https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/toden/kanren/kashikiri.html)。乗車定員約60人、座席定員20人なので、同じ3,000円なら全員着席で45,000円程度の利益が出る。駅に集合して乗車する前からストーリーが始まって、電車の中でドラマが展開し、下車した後も目が離せなくなった観客が居酒屋まで誘導され、エンディングと同時に飲み会が始まる…なんていうパフォーマンスが合ったら面白いじゃないか。初めは一人の案内人がいて、観客に紛れたキャストが順次ストーリーに加わってくる展開も面白い。劇中で、観客が参加するアドリブ部分があったり、ちょっと種明かしの休憩時間があっでもいいと思う。
更に、3,000円の料金もアレンジできる。校庭での公演は50人収容を想定しているが、それは総額15万円を意味している。だとしたら、5人の美女がかわるがわる自宅に訪ねてきて、そこで展開するドラマを家族や仲間で楽しむ講演を、5万や10万、いや15万で行ったらどうだろう。これは会社や施設のアトラクションとしても面白い。何しろ演劇は、どんな舞台設定だってそれをドラマにできるから。別に楽器も機材も必要ない。むしろ、生活や仕事の場がそのまま舞台になったら面白いに違いない。こうした演劇を、会員制で展開する。役者や脚本家はもちろんのこと、観客や興行者も仲間になって、規模が小さくても余計な費用の掛からない、限りなくコストパフォーマンスの高いビジネスが可能となる。すると、他の審査員からも「私は1956年の会を作って大盛況、あなたたちももっと1988年生まれの女を集めて、子に事業を展開しなさい!」とさらに議論は盛り上がった。
今日は審査員というお仕事をしたはずが、新たなプランが湧き出してすっかり有頂天になってしまった。もちろんすべて、発表者に対するアドバイスとして会場で披露したのだが、どう考えても実現すべきという思いが拭い去れず、ここに書かずにはいられなくなった。まずは「88生まれの女たち」の皆さんに連絡し、その実現に向け説得してみたいと思う。そしてもしもそれが叶わないのなら、他の誰でも構わない、フラッシュモブならぬ「会員制の演劇モブ」ってどうよ・・・それが今日の提案だ。