外国人になったことのない人に

僕は年に1回は海外旅行に行くことを心掛けている。

その理由は簡単で、国内を旅行するよりずっと安いからだ。

例えば、パリ6日間6万8千円、インド5日間5万8千円、ギリシャエーゲ海クルーズ7日間9万8千円、そして中国の北京と上海に家族を連れて行ったツアーは、いずれも3泊4日全行程ホテル食事つきで2万円。

いずれも激安のパックツアーで、自由時間が少なかったり、移動が多かったり、お土産屋に連れていかれたりいろいろある。

だが、そもそも休みを取ること自体が最大の贅沢である僕たちにとって、強行軍なのは望むところだ。

むしろ、短期間にスケジュールを詰め込んだ激安ツアーは、日本の建売住宅にも似た切ない芸術品かも知れない。

「そんな旅行行きたくないよ」という人をわざわざお誘いする気はない。

僕が誘いたいのは、「まだ外国に行ったことない人」ではなく、「外国人になったことのない人」だ。

「外国人になる」とは、よそ者になることだ。

本来は、自分の慣れ親しんだ町から出て他所に行けば、たとえ国内にいてもよそ者のはずだ。

そこでは、誰も知らず誰からも知られない存在で、すべての人が初対面。

そこで出会う全ての人が、見た目の印象や、醸し出す雰囲気ですべてを判断し、ゼロからのコミュニケーションを始める。

自分の知識を総動員して未知のことに立ち向かう、一期一会の真剣勝負の連続だ。

本当は、日々新たに出会う全てが、こうした発見のはずなのに、似たような体験や光景が繰り返されるうちに、習慣化してしまう。

人の話を真剣に聞きもせず、人の表情を真剣に観察せず、先入観や早とちりで誤解をし、解り合えないままでいる。

習慣化とは、人を理解するためには欠かせないはずの努力を、怠ってしまうことに慣れることだ。

こうした惰性から脱却するために、僕はあえてよそ者になる。

海外旅行はその切り札だ。その国のことを知りたくて行くのでなく、知らない国で知らない人から何をされるのかを楽しみに行く。

だから、その下調べから、すべての工程が楽しみだ。

そして、実際に現地に行くと、四六時中感じる他人の視線。

日本人はどう思われているのか、自分はどう見られているのかは、絶対に行ってみなければわからない。

そしてその時、日本で外国人を見た時の自分の気持ちを思い出す。

ネットやテレビで見た世界とそこで見る現実との違いが、痛いほど体に突き刺さる。

世界が、そんな痛みで満ちていることを感じない人はいないと思う。

普通の海外旅行は、行きたいところを決めるのに、見たいものから決めると思う。

見たいものを見るために、買いたいものを買うために、そんな旅行は目的でなく手段にすぎない。

でも、僕の旅行は日程と値段で決める。

月に2回は検索サイトをチェックして、世界各地へのツアーを安い順にリストアップする。

めぼしいツアーがあればその詳細を見て、そこがどんなところか調べてみる。

そして、いくつか日程の候補を挙げ、自分のカレンダーに書いてみる。

仕事や家族のやりくりがつけば、すぐさま情報開示をし、付き合ってくれる道連れを募集する。

今までずっとそうしてきたので、これを「世界激安ツアー探検隊」と名付けて、2月からイベント化したのだが、なぜかいまだに参加者は一人もいない。

だからもう辞めようかと思ったが、もう一度だけやってみたいと思う。

あなたが海外旅行に行ったことがなかったら、是非とも参加してほしい。

たとえ行ったことがあってもかまわない。

日々のマンネリを感じるなら、一発で解消できることを保証する。

頭が固くて困っている人は特に歓迎だ。

世界の誰もやっていない新発明を目指す前に、世界で何が起きているかを自分の目で見るべきだ。

テレビやネットにいくら目を凝らしても、メディアが目を向けない多くのことが、一切伝えられていないことを忘れてはならない。

何も知らないまちで360度すべてに目を向け、耳を凝らし、勇気を出して語り掛ける探検に、一緒に行ってみたい人。

笑恵館でお待ちしてます。