みんなのアパート(BLエントリーより)

Aさんは、高齢となった母上所有の2件のアパートの管理を引継ぐべく、大家業を猛勉強中です。

入居者の現状とこれまでの集金状況を始め、老朽化した建物の診断とこれまでの修繕履歴及び長期修繕計画、そして周辺エリアのマーケティングなど、大家業をビジネスと考えた場合当然行うべき事業分析を手探りで行ったそうです。

その結果、不動産業者、工事業者を始め、所有者である母上からも「余計なことをするな」と煙たがられ、そんな相談に私を訪ねてこられました。

Aさんは昨年までドイツで暮らし、現地の先進日系企業であるN社で働いていたこともあり、大家であれば当然のことと思っていたこれらの作業が、日本では周囲から迷惑がられることに困惑しています。

不動産会社で働きながらアパート経営を学び、ゼロからアパートオーナーになった母上から「素人のお前が余計なことをするんじゃない、プロのいうことを黙って聞いておけ」と叱られれば、確かに口答えの余地はありません。

しかしその話を聞いているうちに、やはりおかしいと私は感じました。

母上は、所有者なのか業者なのかといえば、私には「母上は業者」に思えます。

なので当然「母上はプロでAさんは素人」ということになるわけです。

しかし、所有者としてはどうでしょう。プロの所有者とは何でしょう。「プロに身を委ねるのが所有者だ」とでもいうのでしょうか。私には、自分の所有物の強みと弱みを知り、それを自分のためにどう生かすかを真剣に考えることこそが「所有者のやるべきこと=地主の役割」ではないかと考えます。

「みんなのアパート」は、そんなAさんに贈る私の提案です。母上が所有するアパートが、たとえ「売却を前提とした投資用アパート」であったとしても、所有者としてなすべきことをやりたいという願いを「ビジーネス」で表現しました。「みんなのアパート」とは、入居することによって所有者を介してみんなが緩やかな家族になるアパートのこと。そうすることにより、常にアパートが健全な状態で満室を維持できることが、所有者にとっての価値であり、その価値は売却時にも高く評価されるに違いありません。

アパートの価値が、駅からの距離と間取りと築年数で決まるということ自体、マーケットを固定化し、ビジネスを安易な仕組みにしているだけに過ぎません。これを「ビジネス」と呼ぶ気にもなれません。何度でも言いますが、ビジネスとは、目的実現のためのチャレンジです。どんな制約があろうとも、自分が納得できる目的を掲げれば、それは自由なチャレンジに変化するのではないでしょうか。

ビジーネスフェアinシェア奥沢 ワークショップより