盲目の会社たち

昨日、Iさんが久しぶりに相談にやってきた。お孫さんと遊んでいるうちに思い付いたアイデアが新商品になりつつあり、その面白さに僕もすっかりのめり込んでしまった。今後の事業展開の夢を大きく膨らませた後は、具体的な会社設立の話となり、定款案を拝見したところで、僕は愕然とした。なんと株式会社の定款には「目的」の記載がない。僕はここ数年、社団法人やNPOなど株主のいない法人ばかり作ってきたので、株式会社の定款をきちんと読むのは久しぶりだった。これまで「法人定款の3要素は名前・目的・方法」と言い続けてきた僕にとって、これは看過できない大問題だ。

 

そこでまず、株式会社・社団法人・NPO法人それぞれの定款雛型冒頭部分(総則)を比較したいと思う。

 

まずは、【株式会社の定款雛型】は

第1条(商号)当会社は,○○株式会社と称する。

第2条(目的)当会社は,次の事業を行うことを目的とする。

  • (1) ○○の製造及び販売
  • (2) ××の輸入及び販売
  • (3) 前各号に附帯又は関連する一切の事業

第3条 (本店所在地)当会社は,本店を東京都○○区に置く。

・・・と、こんな感じ。

 

次に【一般社団法人の定款雛型】は

第1条(名称)当法人は、一般社団法人○△会と称する。

第2条(主たる事務所)当法人は、主たる事務所を東京都○○区に置く。

第3条(目的)当法人は、○○することを目的とし、その目的に資するため、次の事業を行う。

  •  ⑴ ○○○○
  •  ⑵ ○○○○
  •  ⑶ 前各号に掲げる事業に附帯又は関連する事業

・・・とこんな感じ

 

そして最後に【NPO法人の定款雛型】は

第1条(名 称)この法人は、特定非営利活動法人○○という。

第2条(事務所)この法人は、主たる事務所を東京都○○区に置く。

第3条(目 的)この法人は、広く一般市民を対象として、○○をはじめとした○○に関する事業を行い、地域の○○に努めることで、○○に寄与することを目的とする。

第4条(特定非営利活動の種類)この法人は、前条の目的を達成するため、次の種類の特定非営利活動を行う。

  • (1) ○○○○を図る活動
  • (2) ○○○○を図る活動
  • (3) 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動

第5条(事業の種類)この法人は、第3条の目的を達成するため、特定非営利活動に係る事業として、次の事業を行う。

  • (1) ○○○○事業
  • (2) ○○○○事業
  • (3)その他目的を達成するために必要な事業

・・・とこんな感じだ。

 

この3種類の法人の【目的】だけを抽出すると、その違いは歴然だ。

  • 株式会社:「当会社は,次の事業を行うことを目的とする。」
  • 社団法人:「当法人は、○○することを目的とし、その目的に資するため、次の事業を行う。」
  • NPO法人:「この法人は、広く一般市民を対象として、・・・ことで、○○に寄与することを目的とする。」

これらを整理すると・・・

  • 株式会社は「事業(方法)=目的」
  • 社団法人は「目的のために事業(方法)を行う」
  • NPO法人では「社会のための目的・目的のための活動(手段)・活動のための事業(方法)」

となる。

 

そもそもIさんは、すでに様々な窓口を訪ねて特許や製造法・コスト計画など事業内容に関する検討を進めており、僕を訪ねた目的は「その事業をどのように発信し・普及していくのか」ということだった。だが、それに対する僕の答えは、「Iさんはこの商品を販売することで人々や社会をどう変えたいのか・・・つまり事業目的によってそれは決まってくる」ということだ。ところが、会社の定款では「事業を行うこと」そのものが目的となっていて、何のビジョンも描かれていない。それはIさんの責任ではなく、株式会社の定款そのものの形式だということが恐ろしい。これでは全ての株式会社が、目的を持たない「盲目の会社」になってしまう。

 

実は、法律上株式会社は社団法人の一種と位置付けられており、定款の絶対的記載事項も社団法人に準じているので、本来は目的を述べた上で補足的に事業内容を述べるべきだと思われる。だが、株式会社の真の目的は「株主への配当」に他ならない。その結果、事業目的を記載せず、事業そのものを目的化するようになったと僕は推測する。知ってはいたけど、僕は改めてこのことを突き付けられた気がした。そして、僕がなぜ非営利ビジネスに傾倒してきたのかが分かった気がする。利益追求が悪いのでなく、目的不在こそが致命的な問題だ。

 

「定款」を身近に感じる人は少ないと思う。だが、「法人の定款など読んだことがありません」と言う人は「日本の憲法など読んだことがありません」と言っているのと変わりない。事業を起こし、会社を作るということは、その目的を明確にすることで自ら存在価値を定義していることを忘れてはならない。それなのに、株式会社の定款に「当会社は,次の事業を行うことを目的とする。」書くのは、憲法に「この国は、政治や行政を行うことを目的とする」と書くのに等しいと僕は思う。だから今後は、すべての株式会社に「目的=何のために事業をするのか」を必ず考えるよう提言したい。せめて社団法人に倣い「当法人は、○○することを目的とし、その目的に資するため、次の事業を行う。」の「〇〇」を、事業者と共に考えていきたいと切に願う。