1.辰建設株式会社の整理に関するご報告、お詫びとお願い


前略、突然の、そして、突飛なご報告させて戴きますことを、衷心よりお詫びいたします。
 去る6月14日、東京相和銀行が経営破綻に至ったことは、各種報道などでご存じのことと思います。この銀行は、私ども辰建設にとっていわゆる「メインバンク」であり、弊社は運転資金の大部分をここから調達しておりました。そのような関係から、東京相和銀行による自己資本増強のための第三者割り当て増資にもやむなく協力してきました。しかしながら今回の同行の破綻に伴い、弊社の保有株式が紙切れと化し、甚大な損失を被りました。同行の体質悪化は従前より懸念されてきたことで、弊社におきましてもリストラを含めた経営戦略の再構築を急いできましたが、この日を境に再建計画の策定と行動が急務となりました。
 2週間後の6月28日にグループ各社も含めた財務分析を完了しましたが、事態は極めて深刻でした。そこで私は自力再建をあきらめ、会社更生法の事前相談とスポンサー企業との折衝を並行して開始しました。東京地裁は極めて協力的で、翌29、30の両日に渡り、日に2度ずつの相談をさせて戴きました。相談を進める中、弊社が財務的に困難な状況にあることは言うまでもありませんが、それにも増して大きなダメージを受けたことが判明致しました。それは、お客様、協力会社の皆様からの、弊社に対する信頼の失墜です。
 弊社は東京相和銀行に限らず、特定のお客様からお仕事を頂いている会社ではありません。ビルやマンション、住宅をお建てになる個人のお客様と直接関わってきました。私どもはお客様に直接ご提案し、直接お叱りを受けながら仕事をしてきました。だからこそお客様からご信頼を受けていると信じています。ところが、お客様にしてみれば、自身の信用で建設資金を調達されているのです。金融機関にしてみれば先行き不安な工事に融資など到底出来ません。協力会社の皆様も同様です。先行き不安な会社の仕事など当然出来ません。しかしながら、建設現場は生き物であり、この不信感が次第に現場の進行を妨げる結果となりました。こうした状況下では再建の最低条件である資金繰りの目処が全くたたないことが判明し、7月1日、弊社は会社更生法の申請を断念し、翌7月2日の弊社安全衛生大会を会社状況説明会に切り替え、協力会社様の一部と弊社全社員にこの状況を報告しました。
 もちろん、その不安を払拭し、業務を安心の内に進行させるのが私の努めと自覚し、ぎりぎりまでこの作業に奔走したことは言うまでもありません。しかし、このような状況では現場は動かず、全ての仕掛かり工事契約をお施主様より解除されるに至りました。残る資金僅かとなった為、7月分給与支給は不可能となり、7月20日には全従業員を解雇しました。少しでも皆様方に弊社の誠意、努力をご理解して戴きたい一心で、21日の手形の決済も、大変ご心配をお掛けしましたが、どうにか決済いたしました。しかしこれ以上の資金繰りは不可能となり、会社を整理せざる得なくなりました。8月2日には、主たる債権者の皆様にお集まりいただき説明会を開催いたしましたが、「早くけじめを付けよ」との声が強く、会社整理を決意するに至り、8月4日東京地裁に破産の申し立てを致しました。
 40年の長きにわたり、創業者松村慶文はもとより弊社をご愛顧いただきましたお客様各位には、計り知れないご迷惑をおかけすることに至りましたことをお詫びするより他ございません。大変申し訳ございません。メンテナンス等当面の間はご不便をおかけすることになりますが、とりあえず下記連絡先まで何なりとご連絡下さい。皆様のお叱りとご理解をいただければ幸甚です。今後の再起を期すとともに、皆様のご多幸をお祈りいたします。 
 以上、大変失礼とは存じますが取り急ぎ書中をもってご挨拶申し上げます。
土下座
1999年8月9日

辰建設株式会社
 代表取締役 松村拓也

2.新会社設立のご挨拶

拝啓 仲秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。ほかでもございませんが、今般の辰建設株式会社の倒産につきまして、皆様方にお詫び方々、ご報告いたします。
メインバンクであった東京相和銀行の破綻に端を発し、辰建設株式会社の資金繰りが行き詰まり、去る八月九日に破産宣告を受けましたことを改めてご報告申し上げます。私の力不足により皆様方に多大なご迷惑とご心配をおかけすることに至りましたことを、衷心よりお詫び申し上げます。
辰建設株式会社の自力再建を断念したとき、私は少しでも関係者の方々への迷惑を防ぐため、あえて情報を開示し、「会社は倒れても仕事を継続したい」と訴えました。その結果、会社は倒れましたが、すべての工事は何とか継続し、順次完成にこぎつけています。これもひとえにお客様のご理解と協力業者様のご支援、そして解雇された元社員たちの情熱のたまものと、確信しています。そして今私は、「潰れた会社が工事をやり遂げる」という奇跡を起こして下さったみなさまの思いに何とか応えなければならないと、立ち上がることを決心致しました。
辰建設の整理がまだ途上ではございますが、あえて新会社を設立したことをご報告いたします。この新しい会社の使命は「感謝の気持ちをすべて仕事にぶつけること」と肝に銘じております。新会社名は「株式会社 辰」とし、施工途中の工事を肩代わりして下さった「株式会社ユニホー」より、100%の出資をいただき設立いたしました。仕事の継続のために自分の意志で残った元社員たちが、遠慮や隠し事のない建築最優先の会社・・・「建築屋」を作ります。
沈滞する経済状況の中で、社会が必要とする企業を作るためには、まずはお客様から必要とされる仕事をしなければならないと、私どもは考えます。あらゆることを提案し、お客様の声を必死に集めなければなりません。ですから、私どもにとって皆様は、単に仕事の発注者というだけではなく、仕事をさせていただいた協力者であると理解しております。私どもは、皆様から本当に多くのことを教えて戴きました。しかし、辰建設が潰れた今、皆様の不安と不満は計り知れないものと存じます。つまり建物は単なる消費財ではなく資産であるからです。「施工会社が潰れてしまった建物」という汚名だけでも、大失点だと存じます。会社が潰れてみて、私は一番大切なことがようやくわかりました。それは、「建設会社は潰れてはいけない」という当たり前のことです。建設会社が潰れると、その会社が施工したすべての建物までが信用を失います。これこそが、建設業の特徴かもしれません。その責任は私にあります。ですが今の私にはどうすることもできません。
そこで、新会社の名前はあえて「辰」としました。ご迷惑をかけた皆様にご理解をいただくのは難しいとは存じますが、今までのご支援を無にしないためには、新しい「辰」の再生より他に道はありません。ゼロからの再スタートではありますが、これまで以上のお叱りとご支援をどうかお願いいたします。厳しい経済状況ではありますが、だからこそ必要だといわれるような「建築屋」を目指してがんばります。
取り急ぎ、書面にて失礼申し上げます。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
敬具
平成11年10月
株式会社 辰 松村拓也
(旧辰建設株式会社 代表取締役)


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最終更新日:010220