2.新会社設立のご挨拶
拝啓 仲秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。ほかでもございませんが、今般の辰建設株式会社の倒産につきまして、皆様方にお詫び方々、ご報告いたします。
メインバンクであった東京相和銀行の破綻に端を発し、辰建設株式会社の資金繰りが行き詰まり、去る八月九日に破産宣告を受けましたことを改めてご報告申し上げます。私の力不足により皆様方に多大なご迷惑とご心配をおかけすることに至りましたことを、衷心よりお詫び申し上げます。
辰建設株式会社の自力再建を断念したとき、私は少しでも関係者の方々への迷惑を防ぐため、あえて情報を開示し、「会社は倒れても仕事を継続したい」と訴えました。その結果、会社は倒れましたが、すべての工事は何とか継続し、順次完成にこぎつけています。これもひとえにお客様のご理解と協力業者様のご支援、そして解雇された元社員たちの情熱のたまものと、確信しています。そして今私は、「潰れた会社が工事をやり遂げる」という奇跡を起こして下さったみなさまの思いに何とか応えなければならないと、立ち上がることを決心致しました。
辰建設の整理がまだ途上ではございますが、あえて新会社を設立したことをご報告いたします。この新しい会社の使命は「感謝の気持ちをすべて仕事にぶつけること」と肝に銘じております。新会社名は「株式会社 辰」とし、施工途中の工事を肩代わりして下さった「株式会社ユニホー」より、100%の出資をいただき設立いたしました。仕事の継続のために自分の意志で残った元社員たちが、遠慮や隠し事のない建築最優先の会社・・・「建築屋」を作ります。
沈滞する経済状況の中で、社会が必要とする企業を作るためには、まずはお客様から必要とされる仕事をしなければならないと、私どもは考えます。あらゆることを提案し、お客様の声を必死に集めなければなりません。ですから、私どもにとって皆様は、単に仕事の発注者というだけではなく、仕事をさせていただいた協力者であると理解しております。私どもは、皆様から本当に多くのことを教えて戴きました。しかし、辰建設が潰れた今、皆様の不安と不満は計り知れないものと存じます。つまり建物は単なる消費財ではなく資産であるからです。「施工会社が潰れてしまった建物」という汚名だけでも、大失点だと存じます。会社が潰れてみて、私は一番大切なことがようやくわかりました。それは、「建設会社は潰れてはいけない」という当たり前のことです。建設会社が潰れると、その会社が施工したすべての建物までが信用を失います。これこそが、建設業の特徴かもしれません。その責任は私にあります。ですが今の私にはどうすることもできません。
そこで、新会社の名前はあえて「辰」としました。ご迷惑をかけた皆様にご理解をいただくのは難しいとは存じますが、今までのご支援を無にしないためには、新しい「辰」の再生より他に道はありません。ゼロからの再スタートではありますが、これまで以上のお叱りとご支援をどうかお願いいたします。厳しい経済状況ではありますが、だからこそ必要だといわれるような「建築屋」を目指してがんばります。
取り急ぎ、書面にて失礼申し上げます。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
敬具
平成11年10月
株式会社 辰 松村拓也
(旧辰建設株式会社 代表取締役)