
近頃、大企業の人員整理のニュースが目立つが、トランプ関税に端を発する世界経済の構造変革を睨んでのことらしい。
すでにリーマンショック時の雇用調整を越えそうなのに、まだ日産自動車などの大型案件が控えているという。
だが、当時と全く異なるのが、業績が悪化した企業だけでなく、空前の利益を計上した企業までもが大型リストラを発表している。
ここで言う雇用調整が今後の予定計画なら、業績は現実結果を意味している。
もちろん僕たちは過去の思い出でなく、これからの未来を生きるのだから、大切なのは未来であって過去はその糧となるべきだろう。
だが、未来の是非は過去との比較によってのみ語れるのであり、過去無くして未来を描くこともそれを評価することもできはしない。
終わり良ければ総て良しとか、温故知新とか、過去という現実を大切にしながら未来を論じるのが当たり前、と思いきや、ふと日本最大の法人のことを思い出した。
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日本最大の法人とは、もちろん日本国政府のこと。
参考までにCIAのThe World Factbookによると、政府の収入が大きい国・地域のランキングは、1位がアメリカ(6兆4,290億ドル)、2位が中国(3兆9,830億ドル)、3位がドイツ(1兆7,850億ドル)、4位が日本(1兆7,560億ドル)、5位がフランス(1兆4,270億ドル)となっている(2020年、ドイツのみ2019年のデータ)。
ちなみに、企業の売上ランキングは、1位ウォルマート(6738億ドル)、2位Amazon.com(6201億ドル)、3位サウジアラムコ(4889億ドル)と、経済大国に勝る企業はまだ無いようだ。
だが、ここで問題にしたいのは、国家を経営する法人の決算報告がまるで聞こえてこないこと。
国家政府という法人は、法人税を納めるのでなく徴収する側なので、決算を慌ててしなくても支障がないという訳か。
それにしても、決算報告を聞かずして予算を論ずるなんて、何を根拠に審議しているのだろう。
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財務省サイトによると、令和5年度決算は、令和6年7月31日に歳入歳出主計簿の締切りを行い、各省各庁から提出された歳入歳出の決算報告書等に基づいて「歳入歳出決算」を作成し、令和6年9月3日の閣議を経て、会計検査院に送付した(憲法第90条、財政法第39条)。
これを受け会計検査院は、日本国憲法第90条の規定により国の収入支出の決算を検査し、会計検査院法第29条の規定に基づいて令和5年度決算検査報告を作成し、これを令和6年11月6日に内閣に送付した・・・とある。
その後についてはどこにも記載はなく、衆議院サイトを調べても、審議中とあるだけだ。
そこで、ついでに参議院サイトを調べたら、ようやく「決算審査」という項目に辿り着いた。
憲法第90条第1項には、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と定められている。
毎年度の決算は、内閣から衆議院、参議院の両院に同時に提出され、それぞれの院で審査される。
だがその後に、次のような参議院の手柄話が語られる。
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決算の審査(https://www.sangiin.go.jp/japanese/aramashi/ayumi/sinsa.html)
1 参議院における決算審査
前略・・・決算審査を重視する参議院では、これまで、内閣に対し決算の早期提出を求め、自らも早期審査に努めるなど、決算審査を充実させるために種々の改革を行ってきました。
その結果、平成13(2001)年度決算以降は、原則として直近の常会会期中に議決できるようにあらかじめ計画を作成して審査を行ってきました。
さらに、平成16(2004)年11月には、前年度決算の秋の臨時会への早期提出が実現し、翌年度予算の政府案決定前の審査開始が可能となりました。
内閣による決算の作成及び予算編成時期と参議院における決算審査の流れとの関係は、国会の開会状況等により異なりますが、おおむね次のとおりとなります(参考の図も併せて御覧ください)。
中略
このように、参議院では、決算審査の内容を以降の予算編成に反映させていくことができる予算・決算のサイクルが確立されてきました。
結局のところ、α年度の決算はその2年後に審査され3年後の予算に反映されるという、3年がかりという訳だ。
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実は、この実態を知った僕は、さっそく財務省サイトで2023年度決算データを見つけ出し、Excelで自分なりの予実管理表にして、今日の画像に張り付けた(https://nanoni.co.jp/wp-content/uploads/2025/05/250523.pdf)。
データは所管別と性質別の2種類があったが、歳入歳出を照合するために、ここでは所管別を採用した。
タテ見出しの所管分類は、「皇室費、国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、デジタル庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省」となっていて、皇室費から始まるのが日本式。
ヨコ見出しは、収入・支出に大別し、収入の部「A1.歳入予算額、A2.収納済歳入額、A3.差額」、支出の部「B1.歳出予算現額、B2.支出済歳出額、B3.翌年度繰越額、B4.不用額」となっていて、収入の部が「予実と差額」なのに対し、支出の部は差額がさらに「繰越額と不用額」に分類されている。
「繰越額」は本来使うべき予算の未払い分に相当するようだが、「不用額」は使わずに済んだ額であり、どうやら執行者はこれを嫌うらしい。
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ちなみにこの年の収入差額約13兆円、繰越額は約11兆円、不用額は約7兆円に上り、予算総額約128兆円に対して誤差では済まされない。
恐らくその内訳の説明を聞けば、より多くの国民の関心を得るだけでなく、ほとんどの経営者から様々な意見が飛び出すだろう。
今こそ国家は、法人として決算の速度を上げ、予算審議の根拠にすべきだと僕は思う。
デジタル庁がやるべきは、ボーナスやサービス券をばらまくことでマイナンバーカードを普及するのでなく、国家が3年かけている決算処理を攻めて3か月に短縮することだ。
そうすることで初めて、現状の3年後から2年後の予算に反映することができる「最低レベルの法人」になれるはず。
これからの選挙を気にしながら、来年度予算の論点が決まってくるなどと、テレビの解説に吐き気を覚える。
少子高齢化より、地球温暖化より、決算ののろさと無関心こそが、この法人(国)の最大の課題だと僕は思う。