
自分が使う言葉を選ぶとき、僕は必ずweb検索するよう心掛けている。
そうすることで知りたいのは、その言葉が広く使われているか、そしてどんな意味で使われているかの2点だ。
その言葉が見つからなければ、進んでその言葉を使い、しばらく日を置いてから検索して上位になるか確かめる。
だが、該当する言葉がたくさん現れた場合は、上位の用例をチェックして、僕の意図と同じ意味かどうかを確認する。
もしも同じ意味であれば、その言葉を安心して使用するが、自分独自のキーワードではないと判断し、更なる言葉=問題探しを継続する。
かつて小さなゼネコンを潰したとき、新たに始める会社を「建設会社」とせずに「建築屋」と名乗ったら、たちまち検索上位に躍り出て、今でも維持しているからすごくうれしい。
その後、「土地資源(ランドリソース)」、「地主の学校」など、僕の主要な活動は目論み通り「普通っぽいけど使われてない言葉」がちりばめられている。
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そんな中、近頃厄介な邪魔者・AIが現れた。
「脱相続(だつそうぞく)」で検索すると、上位に僕たちの法人サイトがヒットするのだが、その上に表示される下記の「AIによる概要」が気にくわない。
“「脱相続」とは、相続の仕組みを避け、相続税の負担や相続トラブルを回避するための対策を指します。具体的には、財産を相続するのではなく、生前贈与や信託、法人化などによって財産を管理・運用することで、相続を回避する手段です。”
特に前段の「相続税の負担や相続トラブルを回避するための対策」というくだりが気にくわない。
これは「空き家問題」を「空き家がもたらす迷惑や危険」と規定するのとよく似ている。
つまり、「空き家には、良い空き家と悪い空き家があるので、悪い空き家を取り締まる」と言ってるようなもの。
「空き家がもたらす悪影響」でなく「空き家自体の悪」について論じるため、いちいちその説明をし続けてきた僕にとって、「相続自体の悪」を語るのがいかに厄介なことかについて、今日は語り(愚痴り)たい。
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まず、相続は制度として、次の2点で破たんしていると思う。
まず第1に、法定相続人を子供(血縁者)としている点で、少なくとも現行の制度は少子化に対応していない。
そして第2に、土地に関してはその区画と権利双方の細分化が進むばかりで、分割配分自体がナンセンスだ。
もちろん、これらがもたらす弊害などどうでも良いとは言わないが、この制度を修正すべきとも思わない。
僕が言いたいのは、例え制度に不備が有ろうとも、まずはそれを克服する方法を考えるべきということだ。
その意味において、上記にはあらかじめ異なる選択肢が用意されている。
まず1点目は、法定相続人に相続せず、遺言書に定める指定相続人に相続すれば良い。
そして2点目は、財産は安易に分割せず共有すれば、細分化せずに多様な利活用が可能になる。
要は、遺言せずに死んでいく被相続人の無責任と、仲良く財産を継承できない相続人のわがままの問題だ。
それを差し置いて、制度のせいにしていることを、僕は看過したくない。
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だが、AIの説明が検索結果に優先することへの不満は、制度のせいにして考えないことへの不満よりもずっと強い。
これは、辞書の語釈(ごしゃく)にも共通するのだが、いずれもその言葉がどのように使われいるかを統計的(無難)に述べているに過ぎない。
検索ソフトとAI双方のアルゴリズム(手順や計算方法)がどう関わっているのかを知りもしないで直感的な感想に過ぎないが、「検索結果」より「無難な説明」を優先するのは辞めて欲しいと僕はあえて言いたい。
辞書の語釈を無難な説明と確信したのは、映画そしてTVドラマの「舟を編む」を見た時だ。
「耳が大きなぴょんぴょん跳ねる動物」という語釈は、ウサギの定義でなく大多数が共有する解釈だ。
AI説明はあくまで「学習し続ける辞書」であることを、忘れてはならない。
つまり、辞書の代わりに検索するなら、AI解説は大いに役立つと言えるだろう。
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なるほど、ここまで書いてきて、僕の検索という行為が辞書を引くことでないことははっきりしたが、もう少しそれぞれの意味を再確認したくなった。
まず「検索」を辞書で引くと「文書・カード・データなどから必要な情報をさがし出すこと」、膨大な情報の中から用例を抽出する作業のこと。
一方「辞書を引く」を辞書で調べても「辞書で調べる」や「辞書に当たる」などろくな類義語が見当たらない。
そもそも辞書を表す「字引(じびき)」という言葉があって、字を順番に並べて探し易くしたものを指すようだ。
つまり、ランダムな情報から探し出す「検索」に対し、あらかじめ順番を決めて並べたものを「辞書」という。
くじ引きのような検索の結果がランダムにならないのは、用例数やその強度(頻度など)によって順序を決めるアルゴリズムの働きだし、安易に変わるべきでない解釈が日々学習することで変化するのはAIの働きだ。
こうしてコンピュータの演算速度が、辞書を引く代わりに検索したり、優先表示されるAI解説を検索結果と思い込んだり、従来の「辞書と検索」の関係を逆転させている。
でも僕は、辞書を引くのは無難な答えで、検索で探すのは面白い答えだということを、忘れないようにしたいと思う。