運命の手紙

ふきの庭は、オーナー家族が暮らす母屋とアトリエを、築120年の古民家と築90年のシェアハウスが挟んで立つ一角の名称で、古民家の庭が蕗(ふき)に覆われていることから名付けられた。
今や都会では見ることのできない古民家が庭と共に残されたのは、10年前まで暮らしていた親戚が昔ながらの暮らしをしていたから。
そんな親戚の介護と看取りを経て、父上が古民家と庭を引き継いだKNさんは、自分が次世代の当事者であることを自覚した。
友人の建築家から僕の噂を耳にして、検索したのが今から6年前、ちょうど僕が「地主の学校」を書き終えた頃だった。
以下、運命の手紙を引用する。

件名:地主の学校入学希望(2019/05/30)
松村さま、はじめまして、大田区東矢口に住んでいる、KNと申します。
父から相続する土地を生かす方法はないかと悩んでおります。
建築家のNさんから、地主の学校のことを教えていただき、ホームページを拝見しました。
とにかく一度、姉と伺わせていただきたいと思います。
6月29日13時から が都合が良いのですが、お願いできますか。または、29日以降の松村さまのご都合を伺って、こちらで検討いたします。
Nさんとは、以前、事務所のお隣さんだったご縁があり、3月には、事務所でやっている・・研究会にお越しいただき、お話を伺う機会がありました。
どうぞよろしくお願いいたします。 KN

自分の考えを一冊の本にまとめてはみたものの、読み物として面白くないので意気消沈していた当時の僕にとり、この手紙はまさに一筋の光明で、すぐに「地主の学校」を開講した。
KNさんのおかげで、僕は自分の主張に自信と確信を持てるようになり、翌翌年2月の刊行にこぎつけた。
「ふきの庭」は、そんな大恩人からの相談なので、僕は全力で応えたいと常々思っていた。
そんな中、母屋の南に隣接する90年来の借地部分の買い戻しに応じた直後の昨年初頭、所有者の父上が逝去され、ついに土地資源の継承が始まった。
今こそ出番と思い立ち、僕は買い戻したばかりの借家に「住み込みコンサル」として転居した。
その後11~12月に最低限の改修工事を行って、年末から「シェアハウス・メゾンふき」としての開業準備に着手した。
以上が、引越し続きで挙動不審と思われがちな僕の近況に関する、種明かし的説明だ。

僕が地主にこだわるのは、「主(所有当事者)」の思いを実現することこそが、土地活用の目的だから。
そこで、土地活用の相談者は「所有者」であることが必須だし、所有者でない場合には「所有者になる覚悟」を要求する。
相談された「ふきの庭の生かし方」について、KNさんの目的を尋ねると「ふきの庭(家と庭)を楽しく維持する」という答えが返ってきたので、僕が即座に「現状のままでの事業化」を提案した。
「維持」とは、物事を同じままの状態で持続させること。
つまり、変化や成長でなく、現状のまま変化しないことを求めている。
そこで重要となるのは、「現状とは何か」ということだ。
それは決して「現状そのもの」を指すのでなく、「目指す現状」を意味している。
映画「パーフェクトデイズ」に例えるなら、「パーフェクトふきの庭」を思い描く必要があると僕は思う。

そのヒントは、継承の中に有る。
送る側が承継を、受ける側が継承を願うのは、そこに何らかの「パーフェクト(目的)」が存在するからだ。
時間経過に伴い劣化や衰退があれば、それらを防ぎ補わなければならないのは確かだが、何を劣化や衰退と考えるかは、「パーフェクト(目的)」次第だろう。
現状の古民家や庭に魅力を感じるのは、それが変化する必要が無いことを意味している。
なので、とにかく現状のままで「必要な人と目指す場所」を思い描き、「試しにやってみる」のが「現状の事業化」だ。
ふきの庭に有る家や庭の「維持を楽しむ仲間(ふきの庭倶楽部)」と、共に暮らす「シェア入居者(メゾンふき)」を募るため、1月中にビジョンを描いてwebやチラシに落とし込み、2月から入会や入居を受け入れたい。

今日は、そんな仲間集めのお知らせだ。
そして、これをきっかけにあなたからの「運命の手紙」が楽しみだ。