目的の共有

いよいよ笑恵館の寄付に向かって動き出す。
寄附とは「無償でモノやカネを譲渡すること」だが、ここで言う「無償」とは、「0円」という意味でなく「お金を介入しない」こと。
お金で測ることができるのは、あくまで周辺の類似や全く別物との比較であり、それ自体の価値はお金以外の物事に置き換えなければ分からない。
つまり、譲る側の満足できる承継と、もらう側の納得のいく継承が、譲渡によって実現するかどうかが問題だ。
すでに12年前、笑恵館を継承するために非営利型の一般社団法人(日本土地資源協会)を設立済みなのはご承知の通りだが、今般もっとふさわしい、まさにそのための法人格を見つけたので、そこへの寄付の実現に向け、僕はチャレンジを開始する。

新たな寄付先の法人格とは、もちろん認可地縁団体のこと。
以下、この制度創設の背景について、簡単にご説明したい。
日常生活レベルにおいて住民相互の連絡等の地域的な共同活動を行い、地域社会において重要な役割を担っている自治会、町内会等の地縁による団体は、いわゆる「権利能力なき社団」に該当するものと位置づけられてきた。
こうした権利能力なき社団については、その資産は構成員に総有的に帰属するが、不動産登記については、代表者名義等により不動産登記簿に登記するより他に方法がないとされていた。
このため、平成3年の地方自治法改正により、地縁による団体が権利能力を取得(法人格を取得)する制度が創設された。
この改正では、地縁による団体は、地域的な共同活動のため不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める範囲内において、権利を有し、義務を負うこととされた(地方自治法第260条の2)。

こうした、「資産の所有を代表者の個人名義に依存せず、法人名義で登記できるように」という社会的要請による法改正は、これだけにとどまらず、平成十年法律第七号「特定非営利活動促進法」や、平成十八年法律第四十八号「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」へと連なっていく。
つまり、非営利法人としてはNPO法人や社団・財団法人などの方が認知されているが、これらの法制化に先立って、すでに全国の地縁団体(町会や自治会)に法人化の道が開かれていたことに驚きだ。
特に、NPOや社団・財団のような法制度に基づく新規設立を前提とせず、全国の約30万か所に有る既存の自治組織すべてに法人化の道が開かれ、平成25年4月1日現在で44,008団体(全国の市町村の約83%に所在)が認可されている。
そこで僕のチャレンジは、「規約に定める範囲」に「笑恵館的な土地活用」を含めること。
まずは身近な世田谷から開始するが、これが全国に飛び火して行くことを妄想している。

「笑恵館的」を具体的に言い換えると「住み慣れた地域に死ぬまで暮らしたい人たちの共同生活や、それを支える事業の場の永続的な所有と運営」となるだろう。
果たしてこれが、地縁団体の目的実現に必要な事業なのかを考えたい。
まず、現状の地縁団体に参加資格のある人は「地域内に住所のある人」となっている。
だが、防犯、防災、ごみ、安全など、規約に定める事業内容の及ぶ範囲には、通勤通学を含む来訪者が含まれて当然だ。。
そこで、僕なりに参加資格者に関する3段階の分類を考察すると、
①所用や興味でこの地域を頻繁に訪れる人、
②必要や興味でこの地域に一定期間居住する人、
③住み慣れたこの地域に死ぬまで暮らしたい人
となり、現に僕は①に該当する住民だ。。
これらの人々を対象に、地域社会の義務と責任の双方を担う当事者を募るため、目的(責任)と方法(義務)を明示するのが規約の役割だ。
そしてもちろん一番大切なのは、③の死ぬまで暮らしたい人のはずで、笑恵館はまさにそのための取組だ。

今日の議論のきっかけは、奥能登被災地支援の中から飛び出した。
輪島市のある集落で、市が所有する廃校の敷地内に交流施設の建設を模索する中で、市から廃校自体を町に譲渡したいとの申し出があった。
僕は、自治会法人格制度の存在は知っていたので、混乱する現地の人たちに説明したが、まさか行政からの寄付申し出は初めての経験だった。
さらに驚いたのは、あたふたする現地の町会関係者にいろいろ確認すると、すでにその町会は認可を取得して、建物も所有しているらしいこと。
つまり、町会の幹部ですら当時の経緯を忘れてしまい、法人格の自覚がないのが現状だ。
地縁団体の復権の道を模索する全国の過疎地に対し、被災をきっかけにこうした実態が露見する奥能登被災地の状況が、示唆に富んでいると感じた瞬間に、僕は東京の実態を思い出した。

過密都市東京の地縁団体もまた、その役割の喪失と会員数の減少に悩んでいる。
地縁団体が新たな役割を見つけ生み出す地域社会の担い手になることこそが、真の地方創生なのではないだろうか。
当初は、寄付を受ける側のメリットとデメリットを明確化し、損得勘定で町会を説得しようなどと思ったが、今回の提案は地域社会の未来を左右する決定打かも知れないぞ。
そんな意気込みで、早速僕は区役所の担当部署に乗り込んで、この議論を展開したところ「ご指摘の通り、認可するのは役所ですが、議論は町会の申請が無ければ始まらないので、まずは町会の総意に基づく規約案をお持ちください」ということだった。
もちろん僕は「よっしゃ、年が明けたら早々に町会にお邪魔して、まちを作る町会を提案したいと思います!」と宣言して退出した。
「存続と発展」を目指す笑恵館を寄付する目的は、町会の「存続と発展」と地域の「存続と発展」だ。
目的を共有するのは、目的は何のためかを繰り返すことで世界を変えることだと強く思った。
正月は奥能登被災地を訪問し、3度目ならではの気づきや発見をしたいと思う。