営利国家と非営利地域

「非営利」と言うと、「儲からない」とか「ボランティア」というイメージが先行するが、今日はこの2つを否定することから始めたい。
まず「儲からない」とか「儲けてはいけない」という「儲け」を否定するイメージは、「営利」という言葉に対する誤解に起因する。
そもそも「営利」とは、お金を余らせて分配することを意味していて、ここでの「利」とは、「剰余金(余り)」を指している。
収入-支出=余りを利益と呼んでいるに過ぎず、具体的には株主への配当、地主や家主への家賃、貸金の利息など、労働や仕入れに対する対価でも経費でもない「不労所得」を利益と言う。
つまり、営利事業の目的はあくまで「不労所得=儲け」であり、全ての業務はそのための手段に過ぎない。
社員(人間)も機械もハードもソフトも、全てがそのための道具に過ぎない。
分け前をもらえず(儲からない)タダ働きさせられる(ボランティア)のは、非営利だからでなく、営利事業従事者のボヤキに過ぎない。

これに対し、「非営利」とは「剰余金以外の目的」のための事業であり、お金が余ってもそれを配分せず、目的実現のため給与、仕入れ、経費などに残さず使われる。
年に一度の決算で、たとえ剰余金が残って法人税を払っても、税引き後のお金は全て翌期に繰り越して、引き続き目的実現のために使われる。
さらに言えば、見返りを求めずその目的実現のために提供された金品は「寄付(きふ)」と呼ばれ、課税の対象にすらならない。
つまり、「営利と非営利」の違いは、目的が「お金かそれ以外か」に帰結する。
その証拠に、営利法人の構成員(メンバー)は株主で、非営利法人の構成員は社員だ。
肝心なのは、どちらが正しいとかでなく、目的に応じて双方を使い分けることであり、目的が「お金かそれ以外か」について、もっと真剣に考えるべきだと僕は言いたい。
さて、ここからが今日の本題で、営利と非営利のどちらが得かを考えたい。
結論から先に言うと、「非営利の方が断然お得」が僕の持論だ。
それは決して「お金よりお金以外に価値がある」などと言う屁理屈でなく、金銭的損得の話なので聞いて欲しい。

まず初めに「税金がかからない」・・・これが一番分かりやすい。
そもそも「利益は剰余金のことですよ」と僕に教えてくれたのが税務署だ。
税務署いわく、「余ったお金(剰余金)=無くても良いお金」なので、そこから税を徴収する。
確かに収入に応じた税金や、ぜいたく品(ガソリン、たばこ?)への課税は、そのためだ。
営利事業は利益を増やすことが目的なので、まさに税金の源泉だ。
これに対し、非営利事業は利益よりも成果を求めているので、利益を減らす工夫が自由にできる上、むしろ不労所得を無くすことで業務や雇用を創出できる。
また、お金を支払う側から見ても、非営利事業の方が無駄がない。
地球環境や社会への貢献を謳う営利ビジネスもたくさんあるが、そこに支払った対価の一部は利益となって課税され、残りも分け前として配分される。
これに対し、非営利事業は利益を配分しないので、支払ったお金がより多く目的実現のために使われるし、さらに対価を求めず寄付すれば、税金もかからない。
多くの人が支払うお金はすでに納税済みなので、税負担の無い寄附という使い方は、支払う側の得になるというのが先進諸国の常識だ。

これに対し、「税逃れでけしからん」と感じる方もいるだろう。
以前トヨタの役員を務めた友人から、社長室に掲げられた「滅私奉公(めっしぼうこう)」と書かれた額を見て、「これは社員に対する訓示ですか?」と章男社長に尋ねたら、「いや、これはトヨタが納税で国に奉仕するという意味だ」と言われたと聞いたことがある。
つまり、営利企業は納税することによる社会貢献こそが目的であり、利益はそのために必要な源泉だという発想だ。
この言い分は、松下幸之助をはじめとするカリスマ経営者たちの決まり文句だが、僕はこれを「親方日の丸主義」と断じたい。
つまり、国家・政府を信頼すると同時に、その後ろ盾を最大限活用するからくりで、その象徴がトランプ政権とイーロンマスクの関係だ。
大多数の犠牲の上に成り立つ少数の成功を、あたかもみんなの成功のように演出しているに過ぎず、社会貢献を「罪滅ぼし」や「施し(ほどこし)」による免罪符的ボランティアと考える病気が、蔓延しつつあるとすら僕には思える。

そこで僕は、この逆に取り組みたいし、その必要性を社会に問いたい。
それは、民の施しで官が担う公益でなく、民のやりくりで民が担う公益だ。
税金を払うことで役所に地域経営を委ねるのでなく、税金を払わず(儲けない)自分たちに報酬を払い(ボランティアしない)ながら自分たちで地域経営を担いたい。
もちろんこれは全てでなく、グローバル(広域)とローカル(地域)で手分けする。
デジタル化など一律化・合理化すべきことは行政と納税事業者に委ねて効率化を図り、地域の独自性や地産地消などに基づく地方自治は民による非営利事業が担えばいい。
全国展開や世界展開を目指す事業者が資金調達のために投資を募るには、相応の利益を上げ配当しなければならないが、地域に根差し持続性を優先する小商いは、むしろ非営利化することで地域貢献を主目的にして地域から求められ育まれる道を目指すべき。
経済成長を前提とした営利国家から身を守るために、僕は地域社会の非営利組織化に挑みたい。