借り≒仮り

皆さんご承知の通り、僕は土地所有の法人化に取り組んでいる。
僕がこの問題に取り組む理由や目的は、これまで語ってきたとおり明確だが、これに賛同して下さる土地所有者の個別の理由や目的は様々なので、その実現を目指す具体的な事業内容は、ケースバイケースで様々だ。
そこで今日は、個別の理由や目的についてでなく、すべてに共通する具体的なやり方(事業手法)についてご説明したい。
土地所有の法人化とは、土地を個人から法人に譲渡することで実現するのだが、ここで大切なことはその法人に所有者本人が所属すること。
つまり、個人の所有者が自分の所属する法人に土地を譲渡することで、個人から法人の構成者(担当者)に変わることを意味している。
従来の法人化は、土地収益を事業配当(不労所得)とする営利法人によるものだったが、僕の提案は事業収益を従事者への業務報酬とする非営利法人によるものだ。
こうすることで、土地は財産から事業へと変質し、その存続は財産相続から事業承継へと変質する。

さて、ここで問題となるのは一体どのような事業を承継していくかということだ。
土地所有者としては、そもそも土地資源の存続を願う理由として、そこで行われる事業が存在するかもしれない。
店舗であれば商売を、農地であれば農業あるいは農的生活を、そして山林であれば里山の保全や自然環境の存続など。
だが、その存続が難しいから当時者は困っているのであり、そんな状況を見ている相続人たちに継承の意思が生まれるはずもない。
いくら仲間を募り、法人化して当事者を増やしても、うまくいく保証はどこにもない。
これでは、土地を所有する個人だけでなく、法人の側も迂闊に土地を受け取れない。
結局は価格を下げて、賃貸若しくは売却の道を探るしかないと、諦めているのが現状だ。

そこで僕が考えたやり方が、「所有権の賃貸」だ。
2014年4月に笑恵館を開業して、手探りで施設運営を行ううちに、新たな設定賃料で新規入居者との契約が進んだり、人件費や光熱費などの必要経費が見えてきて、次第に収支のバランスが見えてきた。
この実効値から作成した事業計画に基づいて、翌年1月「土地資源の賃貸借による所有権の取得契約」を締結し、現在に至っている。
この仰々しい名前がなぜ必要だったのかというと、「所有権の賃貸」では、その意味を誰もが正確に理解してくれないから。
前置きが長くなってしまったが、これが今日の本題だ。

「所有権を賃貸する」とはどういう意味か、お判りか?
僕は、その根拠となる資料や説明を懸命に探したが、見つからなかった。
ちなみに、Chatgptに質問すると、こんな答えが返ってきた。
・・・
「所有権を賃貸する」という表現は、法的には少し矛盾しているように思えます。所有権と賃貸は異なる概念です。以下にそれぞれの意味を説明します。
所有権 (しょゆうけん)・・略・・
賃貸 (ちんたく)・・略・・
したがって、「所有権を賃貸する」という表現は正確ではありませんが、もし何か具体的な状況や意図があれば、詳しく教えていただければ幸いです。
・・・と。
つまり、この件に関する説明や議論は、どこにも見当たらないことがよく分かる。

だが、僕らはこの言葉の意味を知っている。
実際に僕はこの契約で、笑恵館の土地建物の「所有権(=使用権+収益権+処分権)」を、固定資産税相当額の賃料で、田名さん個人から借り受けた。
契約期間は同年12月31日までとし、以後双方解約の申し出がない限り自動更新する。
つまり、1年契約が無限に継続するかもしれない契約だが、その他は極めて一般的な賃貸借契約の内容だ。
ただ、「第2条(使用目的)」として、契約の目的だけは次のように明確に示すことにした。
「乙(法人)は、本業務遂行のための事業計画書(別添)に基づき、本資源を前条の目的以外で使用してはならない。記載事項以外の目的で使用する際は、事業計画書の変更案を事前に提示し、甲(個人)の承諾を得るものとする。」

「所有権の賃貸」については、いまだに公式見解も説明も見当たらないが、僕はこの内容に絶対の自信を持っている。
その理由は簡単で、契約当事者の「甲(個人)」と「乙(法人)」は、現実には同一人物だから。
民法601条によれば「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」とあるので、双方が「所有権」を「物」として合意すれば、この契約は成立する。
さらに、日本土地資源協会においては、多数決の原理は廃止して、原則として全員一致方式(拒否権付)を採用しているので、残るは、法人の構成員同士の信頼関係の問題だが、全ては自己責任に基づく自己判断となる。

というわけで、どこまで論じても絶対に安全で間違いの無いやり方など存在しない。
どこかで覚悟を決め、「試しにやってみる」以外に道は無いと僕は思う。
その「試し」こそ「仮り」であり、「借りること」で実行できる。
「所有権の賃貸」とは、「所有権を試しに貸して(借りて)みること」。
その賃料は、所有者が負担すべき「固定資産税(及び都市計画税)相当額」であり、その負担は所有者と変わりない。
つまり、この賃貸が成立・持続するならば、所有権を渡す側も引き継ぐ側も安心だということだ。
お判りいただけただろうか、この話のためなら、僕はどこへでも駆け付けたい。