プーチンの言い分

先日僕はひょんなきっかけで、『オリバー・ストーン オン プーチン(原題: The Putin Interviews)』という番組をamazonプライムで視聴した。
ハリウッドを代表するアカデミー賞®受賞映画監督オリバー・ストーンは、約2年以上にわたり、現ロシア連邦第4代大統領ウラジーミル・プーチンに、いくつものインタビューを重ねた。
インタビューには、テーマもリミットもない。プーチンのプライベートな部分、家としての部分、共産主義の下で過ごした幼少期から権力を握るまでにのぼりつめた現在まで。
また、彼が築いてきた米大統領との関係性など、様々な事柄について語りつくされている。
ストーンは、アメリカがプーチンを敵視する中、アメリカ人インタビューアーとして、あらゆる出来事に対するロシア及びプーチンの考えの真相を徹底的に追求している。
全4回(約4時間)で構成された“平和と善意”を求める濃密なドキュメンタリー。(以上、amazonサイトより引用)

2015年7月から2017年2月にわたってインタビューした内容を元に構成されたこのドキュメンタリーは、2017年6月に米国で放映され、書籍化もされている。
もちろん日本でも、2018年以降数度にわたってNHKで放映され、翻訳本も出版されている。
したがって、これは誰もが見聞きすることができる開示情報であり、僕は一つの事実としてこのインタビューを受け入れた。
「ソ連崩壊にともなう最も重要な問題は、ソ連崩壊によって2,500万人のロシア人が瞬きするほどのあいだに異国民となってしまったことだ。気がつけば別の国になっていた。これは20世紀最大の悲劇の一つだ」
「答えは非常に単純だ。この地域におけるアメリカの外交政策の基本は、ウクライナがロシアと協力するのを何としても阻止することだと私は確信している。両国の再接近を脅威ととらえているからだ」
いずれもプーチンの言葉であり、プーチンの言い分だ。

もちろん、聞き手のオリバーストーン監督も、かなりの曲者だ。
イエール大学を中退してベトナムに行き、英語教師をしてみたり、帰国後にまた中退して従軍し、ベトナムを経験する。
その後マーチンスコセッシに師事して映画を学び、次のような政治色の強い映画を多数監督する。
プラトーン Platoon(1986)兼脚本
7月4日に生まれて Born on the Fourth of July(1989)兼製作、脚本
JFK(1991)兼脚本
ニクソン Nixon(1995)兼製作、脚本
ワールド・トレード・センターWorld Trade Center(2006)兼製作
ブッシュ W.(2008)兼製作
スノーデン Snowden(2016)兼脚本(キーラン・フィッツジェラルドと共同脚本)[12]
特に最後の「スノーデン」については、プーチンとも時間をかけて議論している。

さて、この映像を見て僕が一番重く受け止めたのは、「現代社会で主権を行使できている国は数少ない」というプーチンの主張だ。
かつてソ連が崩壊し、東西冷戦の終結とともに大統領になったプーチンは、アメリカと連携することでロシアの再建を図るべく努力を重ねてきたという。
ソ連崩壊に先立って、すでに東側陣営のワルシャワ条約機構が消滅しているのに、冷戦終結後もNATO(北大西洋条約機構)が存続し、ロシアを敵国想定し続けている。
NATOという軍事同盟の拡大は、ロシアの軍事的脅威を想定したアメリカによる囲い込みに他ならない。
囲い込むアメリカだけでなく、囲い込まれる諸国の国民たちは、本当にロシアを敵対視しているのだろうか?
ロシアをスケープゴート(いけにえ)にすることで、結束を強めるというやり方が、人々の総意であるとは考えたくもない。
もしも国民が望んでいないのに、それを望んでいるかのように誘導してまで強国に忖度することを、「主権を行使できない国」と僕は解釈する。

発表から5年を経て、ウクライナ侵攻が続く今、このインタビューが広く見られるようになったという。
そして、多くの論調が「ストーンがプーチンに寄り添う姿勢」を批判しているように思えるのも、致し方ないと思う。
そしてもちろん、僕はプーチンを擁護する気は微塵もない。

だが、ウクライナに武器供与を続けることは、戦争の継続を助長している以外の何物でもない。
もっと世界が声をそろえ、プーチンに、いやロシア国民に戦争停止を呼びかけることこそが、みんなの意思ではないのか。
それを実行することこそが、主権の行使を意味するのではないだろうか。
そして僕らが注視すべきは、世界の軍事費総額の40%以上を担い、世界の至る所で戦争するアメリカの動向ではないだろうか。