オミクロンの気づき

オミクロンって、知ってた?

もちろん今話題騒然の、新型コロナウイルスの新たな変異種の名前のこと。

一部の報道によると、これまで変異種の名前はギリシャ文字の「α(アルファ)」から順に「μ(ミュー)」まで使用されたのだが、その後の「ν(ニュー)」はnew(新しい)と紛らわしいし、「ξ(クシー)」は英語表記のxiが中国の人名(習近平)に使われるため、WHOが配慮したと言われている。

だが、僕にとっての事件はこんな話でなく、そもそも「オミクロン」という言葉に対する驚きだ。

もちろん僕は、ギリシャ文字の読み書きなどできないが、科学や数学で頻繁に用いられるギリシャ文字の読み方ぐらいは、概ね知っていると自負していた。

まずは、ギリシャ文字の一覧表を再確認だ。

大文字    小文字    英語表記(日本語読み)
A   α   alpha(アルファ)
B   β   beta(ベータ)
Γ   γ   gamma(ガンマ)
Δ   δ   delta(デルタ)
E   ϵ ,ε  epsilon(イプシロン)
Z   ζ   zeta(ゼータ)
H   η   eta(イータ)
Θ   θ,ϑ  theta(シータ)
I   ι   iota(イオタ)
K   κ   kappa(カッパ)
Λ   λ   lambda(ラムダ)
M   μ   mu(ミュー)
N   ν   nu(ニュー)
Ξ   ξ   xi(クシー)
O   o   omicron(オミクロン)
Π   π,ϖ  pi(パイ)
P   ρ,ϱ  rho(ロー)
Σ   σ,ς  sigma(シグマ)
T   τ   tau(タウ)
Υ   υ   upsilon(ユプシロン)
Φ   ϕ,φ  phi(ファイ)
X   χ   chi(カイ)
Ψ   ψ   psi(プサイ)
Ω   ω   omega(オメガ)

改めてこの表を見返して、なぜか「オミクロン」だけは見たことが無いと感じるのは、僕だけなのか。

僕が初めて外国に行ったのは、1981年3月23歳の時、南回りのパキスタン航空機を確かダッカで乗り継いで、ギリシャのアテネに降り立った。

建築学科の卒業設計提出直後、1学年上の友人たちの旅行に便乗してバックパックを背負って出発した。

当時のパキスタン航空機には、女性CAは一人しかおらず、あとはちょび髭の男性だらけ。
機内に入ったとたんにカレーのにおいが鼻を突き、トイレにはウンチがこぼれてた。

飛行機に乗れば、そこはすでに外国だと、僕は五感で理解した。

そして、パキスタンで乗り換えたフランクフルト行きの飛行機内は、ドイツを目指す出稼ぎの人たちで満席だった。

せっかくヨーロッパの建築を見るなら、ギリシャで降りて古い順にみて歩こう・・・なんて安易な考えはとっくに吹き飛んでいた。

途中テヘランで給油した飛行機がアテネについて驚いたのは、そこが「アテネ」で無いことだ。

「アテネ」はあくまで日本語で、ギリシャ語だと「Αθήνα」で、英語表記で「Athens」だ。

つまり、相手が日本人でない限り「アテネ」は意味不明は言葉で、せめて英語風の「アッスン」と言わなければ通じない。

現代の空港なら、世界中どこでも「多言語表記」は当たり前だが、当時は英語表記すら普及していなかった。

それでも、英語を話せる人ならどこにでもいたが、地名などの固有名詞はきちんと発音しないと通じない。

ましてや、英語表記が無い上にギリシャ文字が並んでいては、何が何だかわからない。

それらしき場所の前にたたずんで、男の人が入るのを見届けないと、トイレすら入ることができなかった。

そんな経験があったので、僕はギリシャ文字が嫌いじゃない。

もちろん、まるで読み書きはできないが、初めての外国で4日間戦った思い出深い文字だ。

それなのに、ギリシャ文字の中に見たことも聞いたことも無い、少なくとも記憶にない文字があったなんて、オミクロンとの出会いは衝撃だった。

だが、あらためてギリシャ文字の一覧表を見ると、この文字を気にも留めず見落としていた理由がわかるような気がする。

それは、見慣れた英語とほぼ同じ文字であることだ。

だが同時に、「オミクロン」などという長ったらしい読みは、他には「イプシロン」と「ユプシロン」しか見当たらない。

だがここで、気づいたことがある。

この二つを間違いないように注意したことをはっきりと記憶しているが、その脇で「あまりにも変な読み」なので注意する必要すらなかったのかもしれない。

多分○×や選択式の問題なら、難なく答えることができただろう。

つまり、理科や数学の試験用の勉強だからこそ、「オミクロン」を意識する必要が無かったのかもしれない。

試験で点を取るために、答えを暗記する勉強が、僕の脳をゆがめていたのかも知れない。

それが、「オミクロン株」が僕に教えてくれたことだった。

あまりにもつまらない結論なので、せっかく読んでくださったあなたに、今日は謝りたい気分だ(ごめんなさい)。