選挙人と自治

アメリカの大統領選挙は、不思議な膠着状態が続いているが、あなたはどう思う?

大統領が駄々をこねるなど、とんでもない・・・と思うかもしれないが、アメリカはそういう国だと僕は思う。

一言でいえば「無法地帯」、つまり法の支配が行き届いていないというべきか。

アメリカが、法に縛られない自由の国だと示したことは、ぼくはトランプの功績だと思う。

投票結果に疑義を持ち、訴訟を起こして対抗するなど民主主義の冒涜だという人もいるだろう。

だが、たとえそれが民主主義という相手であろうとも、その呪縛と戦う自由を持つことは、アメリカの誇りだと僕は感じる。

その証拠に、アメリカの人たちは、この呆れた戦いを決してやめようとしない。

そして日本では、この状況を他人事と片付け、決して身近に感じようとはしていない。

そもそもアメリカ大統領を選出するための「選挙人制度」について、あなたはどう思う?

50州での投票結果がそのまま集計されるのでなく、州ごとに最大の得票を得た候補者が州に割り当てられた選挙人を総どりし、全国の選挙人投票によって選ばれるため、得票総数が多くても勝てるとは限らない。

たとえ僅差の得票でも、選挙人の数さえ確保できれば、どんなに大差で票を集めても、選挙人の数が少なければ負けてしまう。

おそらく、世界を見回しても、こんなやり方で大統領を選ぶのはアメリカだけだろう。

だが、その理由はアメリカ議会の仕組みを見れば理解できる、

アメリカ議会には上院と下院の2院があるが、これは日本の参議院と衆議院の仕組みとはまるで違う。

下院は人口に比例して州に議席が割り当てられているが、上院は各州2人ずつの100名で構成される。

日本の都道府県を州に見立てるなら、東京都と鳥取県がそれぞれ2人ずつの議員を出すことになる。

日本では、東京都の人口約1400万人に対し、鳥取県の人口は約55万人だ。

これに対し、参議院の議員定数は東京都が10人で鳥取県は2人だ。

東京都の140万人に1人に対し、鳥取県が25万人に1人だから「5倍の格差」がある。

だが、これがそれぞれ2人ずつになったらば、議員1人当たりの人口は東京700万人に対し、鳥取25万人で「28倍の格差」になる。

それ、なぜアメリカの上院は、こんな格差を受け入れているのだろう。

それは、民主主義=多数決という前提の問題だ。

例えば国連では、すべての加盟国が1票ずつ持っている。

これを人口で比較するなら、1位中国の14億人に対し、191位ツバルの人口は1万人に満たない。

つまり、国連での1票の格差は「14万倍」となるわけだ。

選挙人制度は、まさに上院と下院の仕組みを反映したものに思える。

つまり、州の意見は下院型=多数決で決定し、その決定を合衆国で主張するときは州の意見として一本化して投票する。

厳密にいえば、すべての州が総どり方式なのではなく、2州は総どりと小選挙区の併用であり、選挙人の選出方法自体の決め方が州に委ねられている。

このように、多数性と自律性の両立を常に目指す考え方を「自由民主主義」というのかもしれない。

すべてを一律の多数決で決めるのでなく、地域ごとの自由を認めることが、「自治」を産むのだと僕は思う。

僕はよく、世界は「無法地帯」だと言うが、それは「法秩序が存在しない」という意味でなく、「世界を支配する法は無い」という意味だ。

法は自分で作るもの、自分で作るから、それを守ろうと思うのは当然だ。

たとえ小さな地域でも、他人から与えられた法に抗いながら生きるのでなく、自ら法を作り、守る仲間を作ることが自治なんだと僕は思う。