ウィルスと精子

あなたも見たかもしれないが、先日NHKスペシャル「タモリ×山中伸弥 ”人体VSウィルス”驚異の免疫ネットワーク」を見て、余りにもびっくりしたので報告したい。

ウィルスの中には、ウィルスが持っている遺伝子を、われわれ生命のDNAへ組み込むものがいる。

大昔に組み込まれたウィルスの遺伝子が、人間のDNAに受け継がれている。

僕の体の中にも、DNAの8%はウィルスからもらったものがある。

そして、ウィルスの遺伝子は、私たちの体にとって、非常に重要ないろいろな仕事をしていると、分かりつつあり、それがなんと「精子」だという。

新しい命を生み出す「受精」において、卵子にとって精子は明らかに他人=異物だが、それは細胞にとってウィルスが異物であることとよく似ている。

ウィルスが特別なカギを持っていて、それを使って細胞内に侵入することは様々な場面で紹介されているが、精子が卵子に侵入するやり方が、これとそっくり同じらしい。

実は、この「受精」のしくみの始まりは、大昔、私たち祖先に感染したウィルスの遺伝子であるという可能性が浮かび上がってきている。

この他にも沢山例があり、子宮の中で胎児を形成する「胎盤」や、頭の中の「長期記憶」にとって大切な遺伝子も、ウィルス由来だと分かっているとのこと。

性細胞とも呼ばれる精子と卵子は、いずれも本体細胞の半分しか遺伝子を持たないが、卵細胞は遺伝子の半分以外のすべてを持つ細胞対し、精子は遺伝子情報の入ったカプセルにスクリューの役を果たす繊毛がついた小さな魚雷のようなマシーンだ。

遺伝子を運ぶマシーンという意味では、ウィルスによく似ている。

ウィルスが細胞に侵入する瞬間と、精子が卵子に潜入する瞬間を捉えた電子顕微鏡の動画を見た瞬間、僕の世界観がゴロンと変化した気がした。

僕は、父親が発射したウィルスが母親の卵子に侵入して生まれた人間なんだ。

このことを知った瞬間に、僕はウィルスが好きになった。

むしろ、ウィルスから作り出された僕自身にとって、とても身近な存在に思えるようになった。

さらに番組は、新型ウィルスが人を死に至らしめるプロセスを説明するのだが、最終的な死因は、免疫システムで生じる物質による血栓など、人間の側の過剰反応によるものが多い。

ウィルス自身は自己増殖を目指しているだけで、むしろ宿主を殺してしまえば元も子もない。

つまり、人間を危険にさらすのは、むしろ人間自身の方かもしれない。

今回感染が広がるウィルスは、未知の新型ゆえに大騒ぎになっているが、考えてみればウィルスという存在は常に身近な存在で、体内にも多くのウィルスが同居している。

その上先日のテレビを見て、僕はウィルスのような精子から生まれてきたことを知ってしまった。

だからもう、ウィルスが怖いとは思わない。

ウィルスの他にも、僕には糖尿病や高血圧の持病もあるし、バイク移動や焚火遊びなど命の危険がいっぱいだ。

いま世界では、ウィルス対策と経済対策のどちらが大切か、いくら議論しても答えは出ない。

だったら僕たちは、一体どうすればいいのだろう。

いつ死んでも悔いが残らないように、やりたいことにチャレンジするのは当然だが、もしもやりかけで死ぬときはどうすればいいのだろう。

なるほど。

やりかけの事業は誰かに引き継いでもらいたい、と、僕が願うのはそのためだ。

自分が歴史に名を残したり、後世の人から感謝されたいからでなく、ただ単に自分のやりかけたことをやり遂げてもらうために、僕たちは継承にこだわるのだと今気付いた。

精子はウィルスから引き継いだ力で、親の遺伝子を子どもに継承する。

偉そうに、自分の力でやっているような顔をしてるが、僕のやっていることも、親から継承していることなのかもしれない。