ギプスを作ろう

10日間の大連休が明けた5/7(火)の20時ころ。

スーパーカブで帰宅した僕は、自宅勝手口の前でつまづいて、仕事の荷物やスマホを持ったまま転んでしまった。

その時は両足の膝を擦りむいた程度だと思い、近所のシネコンにレイトショーを見に行ったのだが、次第に左ひじが痛くなり、ついに動かせなくなってしまった。

痛みにうなされて寝むれない夜を過ごした後、僕は翌日の朝一番で近所の整形外科に駆け込んだ。

レントゲンで「橈(とう)骨頭骨折」が疑われたので、念のためCTで検査した結果、「転移が無い」つまり「橈骨の頭部分にひびが入っている」との診断となった。

その結果、手術は免れたものの、4~6週ギプス固定することで自然治癒を促すこととなり、僕もこの診断と治療法に同意し、1週間後にギプス固定を行った。

骨折から約1か月経った6/5(水)、レントゲン確認の結果「橈骨頭にずれなど生じていない」という診断で、ギプスの解体を行った。

従来のギプス包帯は焼石膏粉末と綿布を組み合わせ、それを水に浸すことで水和反応により凝固する性質を利用して安価だったが、重く、完全硬化に時間がかかり、X線を通しにくいという欠点もあった。

そこで近年は、よりスピーディーな処置と強度が得られることから水硬性樹脂を含んだガラス繊維(グラスファイバー)製のものが主流となりつつあるそうだ。

はじめ、担当医が「新兵器だ」と言って超音波カッターが使ったが、次第に熱くなってきたので「熱っ!」と言ったら、あわてて辞めて次は回転式のギブスカッター(電動のこぎり)を使い始めた。

ギプスを外し、久しぶりに再会した左腕はすっかりやせ衰えていたが、恐る恐る動かしてみると異常はないとのこと。

「1週間後に再度レントゲンで確認し、異常が無ければリハビリを始めましょう」ということで、ひとまず僕はギプスから解放された。

帰宅後、一月ぶりに湯船に浸かり左腕をじっくり揉んだら、ぼろぼろと皮膚がむけ落ち「ふかひれスープ」に入っている気がした。

翌6/6(木)はで仕事をしていると、夕方K君が「新規法人登記のために笑恵館の住所を借りたいというWさん」を連れてきた。

Wさんは理学療法士で、「理学療法士国家試験のNET予備校ビジネス」がうまくいったので会社を作るという。

そこで早速「リハビリってどうすればいいんでしょう?」と質問したところ、「私がやりましょうか?」とおっしゃるので飛びついて、僕のリハビリが始まった。

骨折を直すためのギプス固定は、固定部分の運動不足だけでなく、そこを守るためのアンバランスやストレスなどを伴い、それらによって筋肉や腱が委縮して動かなくなっている。

つまり、これから取り組むのは、骨折に起因する障害でなく、その治療のために起きた障害を克服するためのリハビリだ。

リハビリとは、「治療」としてだけでなく、「治療がもたらす障害の治療」だということを、僕は初めて実感した。

つまり・・・

気づき:僕のリハビリは「骨折の治療」でなく、「ギプス固定障害の治療」なんだ。

だとすると、「果たして治療は適切だったのか」、「治療が新たな障害を生み出さぬよう配慮されていたのか」に、大きな疑問が浮かんできた。

Wさんの見立てでは、僕の左ひじ外側の筋肉や筋は、骨部に癒着して動かなくなっているらしい。

ひじを固定するように腕を包んだ結果、曲がり角のひじがずっとギプスに押し付けられていたせいだろう。

だが、そのひじこそが患部のはずであり、ギプスに患部を押し付けておく必要などあったのだろうか。

そもそも、腕を曲げた状態を樹脂で包んで密封する必要などあるはずない。

腕の動きを止めることが目的なら、腕を密閉する必要はなく、金属や樹脂を使ったフレームで要所だけ固定すれば事足りるはず。

僕の場合ひじの外側が骨折したので、ギプスで固めると患部がギプスに当たってしまう。

つまり、ギプス固定という治療自体が問題だ。

密閉型のギプスを使う限り、患部を目視することはできないうえ、周辺部分を触ることもできない。

梅雨を迎え、ギプス内の発汗を抑えるために、運動を控えることも、結局筋肉を衰えさせる悪循環だ。

医療は初めの治療から完全な治癒までのすべてのプロセスを考慮するべきではないだろうか。

今日は、リハビリ治療を受ける中で、こんなことを思いつき、Wさんにぶつけてみた。

帰って調べてみると、すぐに3Dプリンターを活用したメッシュ型のギプスが見つかった。

患者の腕や脚をスキャンしてモデリングされるため、サイズはぴったり。

また網目状となるため、通気性も抜群で、痒みやニオイに悩まされることもない。

だが、僕の目的は、患部の開放だ

もちろん僕は、そんな知識も経験もないが、自分が骨折を経験することで、今日はいきなり「医療器具の開発」に夢中になった。

今から20年前に、初めて会社を潰したときのときめきを少し思い出した。

今僕は、「ギブスを作ろう」と本気で思ってる。