クリティカルパスという言葉

新潟旅行から戻り、仕事を再開しようとバッグからPCを取り出すと、充電ケーブルが見当たらない。

しまった、宿で充電したまま忘れてきたに違いない。

さっそく電話で問い合わせると、見つけてあるので着払いで送ってくれるとのこと。

とりあえず事なきを得たが、PCを使えるのは時間の問題だ。

お蔵入りとなった旧機種の電源をほじくり返し、同じ電圧のものを見繕って刺してみると、充電ランプは点灯するが、「正規のプラグではない」というメッセージがうるさく表示される。

・・・こんな体験、あなたにもきっとあるはず。

せっかくハイスペックのPCを買い、システムの環境も整えたのに、実は電源コードやマウスの接続不良など、どうでもいいことのためにすべてが台無しになること。

こうした「欠かせない」とか「不可欠」を意味するいい言葉がみあたらない。

その時ふと「クリティカルパス」という言葉を思い出した。

「クリティカルパス」とは、プロジェクトの進行において、事実上プロジェクト全体の長さを決定している作業の連なりのことを指す。

「クリティカルパス」上の作業が遅れると、プロジェクト全体のスケジュールが遅れてしまうので、「クリティカルパス」上の作業を円滑に進行させることがプロジェクト管理上で重要となる。

例えば、トイレの便器を交換するのに、いくら慌てて古い便器を取り外しても、さっさと新しい便器を注文しないと届かない。

一方、トイレの老朽化が激しい場合、建物や配管の補修に相当の時間を費やすかもしれないので、その場合は慌てて注文しても補修が終わらなければ取り付けられない。

つまり必要不可欠な作業のうちで一番時間のかかる手順がクリティカルパスとなり、その期間が延びれば全体スケジュールが伸びてしまう。

これは時間的なプロジェクト管理法だが、作業の流れと考えれば先ほどのマウスや電源にも通じる話だ。

PCがどんなに優秀でも、マウスの感度が鈍ければ作業性はがた落ちとなり、全体としての能力は一番弱いところで決まってしまう。

マックユーザーはあまりマウスを使わないようだが、Windowsにマウスは欠かせない。だから僕は、マウスだけはいつも一番高いものを買うことにしている。

そしてできれば、同じPCを2台持ち、すべての部品をバックアップできるようにする。

もちろん2台目は中古を購入するのだが、バッテリーや電源ユニットなどの付属品の予備を定価で買うより中古を1台買った方が安い。

今後ICT化がますます進み、あらゆる機器が情報化してくると言うが、それらと長く付き合うためには相当の工夫が必要となるだろう。

建築屋時代に身に着けた「クリティカルパス」という概念が、こんなところで役立つとは。

しかし考えてみれば、すべてのものはいずれ使えなくなる日が来るのだが、使えない状態は許容できない。

その期限は寿命であったり賞味期限であったり様々だが、その決定要因が「物のクリティカルパス」、つまり、「本当に使えなくなる日」ではなく、「買い替えや交換を我慢できる限度の日」ということだ。

僕はマウスの性能にこだわるが、さほど作業を急がない人は安いマウスをいつまでも使っている。

車を2年ごとに買い替える人を僕は馬鹿にしていたが、彼らと僕では「物のクリティカルパス」が違うに過ぎない。

古家の活用に取り組んでいると、この点を痛感する。

同じ家が、ある人にとっては我慢の限度を超えたボロ家となり、ある人にとっては味わいのある宝物となる。

古家を修理するとき、外部と内部、設備と仕上げなど、優先順位は様々だ。

それはまさに、人によって「生活のクリティカルパス」が異なるからだと僕は思う。

電源ケーブルを失くし途方に暮れたからと言って、「改めて電源ケーブルの価値を見直した」とはならない。

だが、その必要性を痛感し、それを表す言葉を探しているうちに、ふと「クリティカルパス」という言葉を思い出し、少し無理やり論じてみた。

でも、これを言い表す言葉があったはず。

「アキレス腱」は比喩的に「強者が持つ急所」を指す言葉だが、ここで言いたいのは「あらゆるものがクリティカルパス的存在になりうる」ということだ。

まあ妥協して「急所」という言葉で言うならば、「ビジネスの急所」を考えることも大切なことだと僕は思う。

誰か、いい言葉教えてくれ!