やるための言い訳(説明)

「空き家の無い社会を目指して」と名乗って活動しているので、おのずと空き家に関する問合せがちらほらと舞い込む。

中でも多いのは「こんな使い方したいんですけど、いい物件ご存じありませんか?」という類(たぐい)。

「あのね、僕は不動産屋じゃないんだから、そんな情報が集まれば苦労しないんだから、そもそも空き家って不動産じゃないから」みたいな説明を毎回繰り返しているんだが、近ごろ違う説明をするようになってきた。

それは「判りました。それではあなたの希望するような物件を、街を歩いて自分で探してみてください。3つぐらい見つかったら一緒に訪問し、僕が口説いて差し上げます」と。

現在4人の方にこう説明し、物件探しが始まった。

この話、まだ実際に行ったことが無いのでこれからどうなることやらお楽しみだが、僕がお話したいのは、こうなるまでの経緯について。

少なくとも、街の中で好きな家を探してきて、一緒に口説きに行こう」などというビジネスは聞いたことがない。

もしも誰もやったことが無いのなら、それだけでやってみる価値がある。

その結果しようがしようが、それは誰も知らない未知の世界。

失敗したらその理由を分析し、手を変え品を変え何度でもやってみる。

もしもうまく行っちゃったら、それは単なるラッキーまぐれだけど、さらに本腰を入れてやるしかない。

つまり、成功しても失敗しても僕には損が一つもない。

新しいビジネスは、それだけでもやる価値が十分ある。

これを見切り発車という人がいるけれど、そういう人は、何が足りないというのだろう。

事業計画ができてないとか、収益の見込みが立ってないとか。

しかし僕には、そんなのやらない言い訳にしか聞こえない。

本当のビジネスは、やらなければ判らないことでできているということを、やったことのない人にわかるはずがない。僕はただそう思う。

このビジネスは、問い合わせに対し自分で答えたその場しのぎの言い訳から、自分でヒントを見出して、出まかせのように生まれてきた。

「僕は不動産屋じゃない」「ここに情報はない」「空き家は不動産じゃない」の3つから、「僕が探すのではない、情報は探しに行く、物件は自由に選んで良い」の3つが瞬時に生まれた。

こうしてみると、「真面目に考えた言い訳は、アイデアに匹敵する」ということだ。

相談の一つはSさんから、犬好きの人たちが気軽に立ち寄れるカフェ併設のサロンのような庭付きの安価な家が、駒沢周辺にないだろうか…というものだ。

「そんなもの、あるわけないしょ」と言うと、「いや、じゃなくても自分の老後の事業だから、2-30年の定借でも十分だ」とのこと。

確かにそれならあるかもしれないが、どうやって探せばいいのかわからない。

「なぜそんなことを考えたんですか?」と尋ねると、「実は散歩の途中で素敵な家があり、こんな家でできたらいいなと思ったんです」とのこと。

僕は目からウロコガ落ちた。

物件はすでに見つかっている。後はその家と折衝すればいいと。

もちろんこのスキームは、現段階では夢物語。

でも、これはSさんの妄想ではなく、実際に街角の家を見て思いついたことなんだ。

つまり、夢はそこに実在する。

あとはその夢をきちんと描き、その家の所有者に説明するだけだ。

もしもそのオーナーと夢を分かち合うことができれば、その家を貸してもらえるかもしれないし、一部を使わせてもらえるかもしれない。

さらにそのオーナーも犬好きで、「そんなことをやってみたかった」という人ならば、土地とノウハウを出し合って、協働事業も可能だ。

そんな妄想は果てしない。

うまく行くかもしれないケースはいくらでも思い描くことができる。

そして、この話をしながら一番ときめいているのはSさん自身だ。

漠然と考えていたプランが、勝手に物件を想定することで一気に具体化し、細かいアイデアも浮かんでくる。

夢は実現するためにある。

夢を実現するということは、あらかじめ描いた夢と現実を同じにすること。

そのためには、クリアしなければならない現実問題が山ほどあるが、それと同じだけ具体的に夢を描く作業があることを忘れてはならない。

細かいディテールに至るまで、あらかじめ描き、それに現実を近づける努力がビジーネスだ。

だから、実際に体を動かし、足で稼ぐのと同じだけ、頭で考え胸をときめかせる必要がある。

肝心なのは、どちらかを選考させるのでなく、両方を並行して進めること。

妄想のヒントは行動の中にあり、行動のヒントは妄想の中にある。

手ごわい相手の賛同を得るためには、その相手が唸るような夢を見せ、その人に辿り着くまでの山のような失敗談が必要だ。

頼まれたことを実現するためなら、頼まれた方法でやる必要はない。

その時は、「やるための言い訳(説明)」をし、その言い訳を自ら逆転しながらその場で新たな方法を提案するのは、まさにビジネスの醍醐味だ。

その意味で、実かな相談をしてくれる人はビジネスの宝物だ。

ただし、その人が本気であること、これだけは見極めないと、厄介なことになるから気をつけて!