B10.破産

平成11年8月2日。弊社は債権者説明会を自主的に開催した。換金できる資産をほとんど支払いにあて、従業員をすべて解雇し、本社事務所まで明け渡してしまった弊社には、担保見合いの債権と未収金、そして膨大な債務だけが残った。はじめに情報開示した日からちょうど1ヶ月が経っていた。

「清算貸借対照表」を配布し、残存する債権と債務の状況を説明した後、質疑応答が始まった。「計画倒産だ」とか「詐害行為だ」といった叱責が続いたが、最後は社長である私の「意図」の問題となった。「なぜ貴方はこんなに急いで会社を潰したのか」と。私は答えた。「私は会社を潰そうと思ったことはこれまでに一度もありません。私は【会社を続ける】ということは【仕事を続ける】ことだと信じています。だからこそ、皆さんに対する迷惑は最小限にしなければなりません。なぜなら皆さんの協力無くして仕事を続けることなど考えられないからです。弊社の破綻は確かにメインバンクの破綻が原因ですが、おかげで弊社の病が重傷であることが即座に判明しました。私には時間がありませんでした。皆さんへのお支払いができるうちに、仕事を続けるために必要な手段をすべて講じなければなりませんでした。皆さんにはひとまず多大なご迷惑をおかけすることをお詫びいたします。このご恩は、仕事を続けることにより必ずお返しいたします」。その後、複数の出席者から「破産」を求める動議が出された。これを請け、直ちに破産の準備にかかることで会議は決した。

「会社の破産」は、ビジネスというゲームの敗者に対する最終処理で、すべての債権債務が裁判所の監督下で処分され企業は跡形もなく消滅する。しかし、これは大企業の話で、中小企業はそうはいかない。オーナー社長は会社に対して私財も投じているし、会社の債務の連帯保証もしているのが実状だ。だから、オーナー経営者は倒産を直視できない。「会社破産=個人破産」というのがオーナー企業の常識だ。私に対しても、様々な噂が流れた。「財産を隠すために離婚した」とか、「スポンサー企業と、陰で取り引きしてる」といった中傷がどこからともなく聞こえてきた。だから、私はあえて毎日出社し、誰とでも面談した。

私は、現状の低金利政策に甘んじて、元本返済をせず、問題をすべて先送りにしているダメ経営者諸氏(私も含む)に強く警告するとともに、「倒産を直視する」という処方箋を書いてきた。しかし、何度も言うが「ビジネスはゲーム」だ。勝者がいれば敗者もいる。そして、従来は8割以上の経営者が勝者でいられたが、今後は半分以上の経営者が敗者となるだろう。しかし、ビジネスで破れたからといって、人生は終わるわけにはいかない。なぜなら、貴方は自らの力で事業を興す「貴重な人財」なのだから。さっさと清算して、次のゲームを始めよう。その時、債務免除や再生法で生き延びるか、破産して裸一貫やり直すかは貴方の判断だ。私は迷わず裸になって、歩き続けることにしたまでのこと。

最後に、読者の皆様にはお詫びをしたい。何でも自分でやっているように書いてしまったが、本当は社員や友人たちがやってくれたことばかり。眠れぬ日々は、いつも家族が支えてくれた。そして、最終的に「当事者能力無し」として更迭してしまったが、そんな社員と、私を育てた創業者の父に、感謝している。

長い間ご愛読ありがとうございました。 次作にご期待下さい

この文章はNEXUS編集部の許可を得て、全文掲載させていただきました。

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