B09.取り立て、暴力団

企業が債務超過に陥ったとき、「倒産覚悟」は絵空事ではなくなる。不良債権の処理に苦しむ日本経済の現状を見るに付け、「倒産回避」とは「債務超過からの逃避」と言わざるを得ない。債権債務のバランスを見るための貸借対照表が、過大な債権と過小な債務で埋め尽くされ、多くの企業で、経営者が自分の頭を粉飾している。

取り立てにやってくる債権者の大部分は、同業者や関連業種の方達だった。一般債権者となるこうした方達は、何の担保もなく契約と手形を信用してお付き合いいただいてきた「裏切ることの出来ない大切な方達」だ。すでに、発注者や元請けの夜逃げや倒産に何度も遭遇し、どなたも満身創痍(そうい)だという。昨日までにこにこ挨拶していた方達が、実は私同様あるいは私以上に追いつめられた方達なのだと分かった。

私は以前から「会社が破綻すると、こうした人たちが押し寄せてきて、会社も現場もめちゃくちゃにされるんだ」と聞かされてきた。「だからこそ、裁判所に申し出て法的に守ってもらうんだ」と。かく言う私も、裁判所に「更正法」の相談に行った。「自分が身を引いてでも会社と現場を守らねば」との一心だった。「更正法」が適用になれば、当座の混乱だけは避けられるだろう。でも、私が取り立てる立場だったらどうだろうか。裁判所に駆け込む会社などとつき合うだろうか。裁判所からも同じことを言われた。「貴方のいないこの会社を貴方はどうやって再建するのですか?」と。私は逃げだそうとしていた自分に気がついた。私が対峙しなければならないのは、初対面の裁判官ではなく、お世話になっている債権者の方達だ。

債権者の中には、暴力団を差し向ける方や、暴力団本人も混じっていた。一見の取引先であれば、その怒りもなおさらだった。強面(こわもて)で乗り込んでくる彼らの対応に、社員達がよく頑張ってくれた。しかし、彼らは「プロ」だ。「取り立て」とは明らかに違う目的を持ってやってきた。それはいわゆる「債権者対策」だった。「取り立てにくる一般債権者達を、私ならおとなしくさせますよ」と言うのだ。わたしは「なるほど」と思った。

経営者にとって、会社倒産の恐怖は、結局「我が身に降りかかる危険に対する恐怖」だ。情けない話だが、法的手段を講ずるのもこのためだと思う。事実、法的手段を何も講じなかった私の所へは、怖い人たちが何人もやってきた。ところが、前述の通り、この人達が「私は貴方の見方です。貴方を助けてあげましょう」と言い出すのだ。まさに地獄に仏である。社員達は動揺した。「社長、これはいい話かも知れません」と言うささやきに、私の心は確かに揺れた。しかし、これが彼らのビジネスだ。「倒産を闇の世界にしているのはこの人達だ」と思った。そこで私は彼らに「今は破産も覚悟しています。ゼロからやり直そうと思います」と言った。すると案の定、彼らは「社長!諦めちゃ駄目だ。きっちり応援するから一緒にがんばりましょう」と私を励ました。これが彼らのビジネスだと私は確信した。

情報開示したその日から、大勢の方達が会社に押し掛け、我々も詰め寄られたが、総じて皆さん紳士で、大きな混乱はなかった。このことは、後に新会社で業務を再開するときに大きな信用となった。当面、債権者の中からは連鎖倒産も出なかったのも、皆さんが本当に戦った証拠だと思う。私の所よりもっとひどい人達が来たに違いない。それを思うと、人様のおかげで自分が生かしていただいていることを感謝したい。今日は涙が出た。

今回はここまで。次回は「キーワードその9:破産」についてお話しします。

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