特殊解こそ一般解

先日の連休は、福岡伸一著、動的平衡1・2・3を一気に読んだ。

この本で、彼は「生命とは何か」というテーマに対し「動的平衡」という答えを提示することで、自分の意見を述べている。

生命は精密な機械ではなく、膨大な物質が「揺れ動きながらバランスを保っている状態」であると説明する。

人間は食べ物を吸い込んだ酸素で燃やして動き、その燃えカスを排せつしているのでなく、食べたものをすべて分子レベルに分解し、体内の各所で必要な物質に組み立てて、置き換えることで要らなくなった古い物質を分解し再利用したり排泄しているという。

人間が1日に飲む水の量は1リットル程度だが、体内を循環して腎臓を通過する血液の量は1分当たり1リットルなので、なんと1日当たり1.44トンになる。

つまり、うんちやおしっこなどの排泄物は、高度なリサイクルが行われた残りのわずかなゴミと言える。

僕はこの本を読み進むうちにどんどん引き込まれ、夢中になり、大いに感動した。

そして同時に、「なぜ僕は、この本にこれほど感動するのだろう?」という疑問がわいてきた。

だが、その答えはすぐに出た。

それは、この凄い仕組みが「僕自身」のことだから。

さらに言えば、「僕やあなたを含むすべての生き物」のことだから。

だからこの本を読むと、話は人間のことよりも、すべての動物はもちろんのこと、植物や単細胞生物、そしてウィルスや分子の話を行き来する。

と言っても、ピンとこないと思うので、本書の内容をもう少しご紹介しよう。

そもそも太古の生命は、すべて1つの細胞でできた単細胞生物で、1つの細胞が2つに分裂するたびに分かれて生きていた。

ところが、10億年前の地層から複数の細胞が分かれずにまとまって生きる多細胞生物が見つかった。

最古の生物が35億年前の地層から見つかっているので、この進化を遂げるのに25億年もかかったことになる。

多細胞生物とは、細胞分裂しても別れずに2→4→8→16→32・・・と分裂を繰り返し、胚(はい)と呼ばれるかたまりとして成長する。

この分裂は、DNAを含む丸ごとコピーで繰り返されるが、やがて役割の違う細胞を作り出す「分化」というプロセスが始まる。

DNAという設計図はすべてが同じ、なぜ違う細胞に分化するのかは、是非この本を読んで欲しい。

ついでに言うと、分化が始まる前の「何になるか決まる前=何にでもなれる細胞」を「ES細胞」と言い、分化が始まった後でもそれをリセットした細胞を「iPS細胞」と言うことなど、この本を読むとよくわかる。

話を本題に戻そう。

僕がこうしてブログを書き、それをメルマガに載せて名刺交換したすべての人に送り付けるのは、僕が「すべての人」に何かを伝えたいからだ。

僕は、一人にしかできないことにはあまり興味がない。

僕がすべての人に伝えたいこととは、すべての人が感じたり、考えたり、そしてできることだ。

例えば、甲子園で優勝したり、オリンピックで金メダルを取るのは、誰にでもできることじゃないので、いくら論じたところで、他人事を想像しているに過ぎない。

僕は、自分が当事者として感じ・考え・実行できないことを、同じく感じ・考え・実行できない人と語り合いたくない。

例えば先日のブログで、僕は皆さんに「王様と金持ちとではどちらになりたいか?」と問いかけた。

もちろん僕のおススメは王様の方だ。

なぜなら、誰もが金持ちになることはできないが、誰もが王様になることはできるから。

一軒の家など、自分一人の小さな国なら、誰でも王様になれると僕は思う。

だが、多くの人は決してそんな風には思ってくれないし、むしろ「王様になどなれるはずかない」と思い込んでいる。

この思い込みを壊したいという願いに、答えてくれたのがこの本だった。

この本の目的は、「人間は自然が作り出した精密な仕組みだ」という思い込みを壊すことであり、まさに僕はその思い込みを壊すことを、身を持って体験した。

その結果、僕が気付いたのは「思い込みを壊すプロセス」という時間経過の重要性だ。

これまで僕は、自分の着想や考え方は、僕自身の思い付きでなく過去の歴史に基づいているという自負があり、その歴史を振り返り確認することで、周囲の思い込みを打ち壊せば、理解を得られると思い込んでいた。

端的に言えば、僕が正しくて、周囲が間違っているという思い込みであり、これこそが間違いだ。

僕に断言できることは、僕自身が今の僕にたどり着いたプロセスだけで、僕が見せることができるのは、まさに今現在の僕という動的平衡状態だ。

僕の言うことを、僕を知る人にしか理解してもらえないことが、それを証明している。

だとすれば、すべての人に語り掛けることはやめないが、焦るのはやめて、一人ずつに向き合っていこう。

すべての人が王様になれるよう、国や地域を作りまくろう。

そうやって、全ての人の特殊解を導き出すことが、きっと僕の提示すべき一般解だ。