失敗記念日

今僕が進めているプロジェクトは、(しょうけいかん)の仕組みで新たにみんなの家を建設するチャレンジだ。

笑恵館とは、「遠くに暮らす身内より、ご近所の他人と緩やかな家族を作り、互いに協力し合うことで住み慣れた町で最期まで暮らしたい」というオーナーTさんの願いを叶えるための家。

開業から満6年が経過して、この考え方に賛同する笑恵館クラブの会員はすでに600名を超えているが、昨年末ごろから「私も自分で笑恵館をつくりたい」という会員が現れた。

その人は、「分譲マンションを買ったり、高級老人ホームに入居するのに何千万も払うなら、笑恵館の建設にお金を出して、その持ち主として入居する方が、どれほど楽しく暮らせるだろう」という。

こうして、新たに笑恵館をつくる話は盛り上がり、オーナーのTさんが張り切って土地探しを始めた。

そしてついに、すてきな候補地が見つかり、早速田名さんが簡易書留のラブレターを送ったところ、その所有者の方が笑恵館に来て下さることになった。

お目にかかったその方は、まずは僕たちの説明を興味深く聞いてくださる、素晴らしい紳士だった。

そして、その方が先代から引き継いだ不動産の維持管理にかける思いやご苦労を、様々聞かせてくださり、こちらも大変勉強させていただいた。

だが残念ながら、今回の申し出は、絶対にお断りさせていただくとのこと。

なぜなら、自分の所有管理する土地の一角に、魅力的な施設ができるということは、自分の資産を貶(おとし)めることになってしまうから。

あなたたちのプロジェクトが素晴らしければ素晴らしいほど、私はそれを受け入れることはできません。

今回、土地探しを始めるにあたり、協力して下さる事業法人の方に意見を求めたが、「まあこういう話はセンミツ(千に3つ)と言われるくらいですから、ダメもとで参りましょう。」と言われていた。

なので、まさか初めに問い合わせた相手が先方から、わざわざお越し下さること自体、驚きだった。

だがそれにもまして、見事でスマートなお断りの言葉とともに、お断りするからこそわざわざ参上いたしましたとのご対応に、本当に感心した。

そして最後に「それにしても、これほど率直に土地や相続について話をするのは初めてです。近所の親しい地主仲間たちともこんな話はしたことは有りません。すべてを率直に話してくださるから、ついこちらも率直にお答えしてしまいましたよ。」と、笑顔でお別れすることができた。

その日は、夕方から笑恵館クラブの運営会議があったので、皆さんにこの顛末を報告した。

もちろん皆さんからは拍手喝采で、「残念だけどその地主さんも素晴らしい。いつの日か、お仲間になれるといいね!」と、少し幸せな気持ちになった。

さらに、地域で顔の広いおばちゃんから「それじゃ、今度は近所の地主さんたちを集めて、土地や相続について率直に話し合う会をやりたいね!」と提案があったので、すかさず僕は「それじゃ、今度は”地域の地主さんサミット”を企画します!」と宣言してしまった。

こうして「見事なお断り」は、すがすがしい「失敗記念日」を作ってくれた。

会議の後は、有志の皆さんがTさんをねぎらう食事会に出かけて行った。