封印破り

私、大金を払って老人ホームに行くくらいなら、笑恵館に出資して、終の棲家を作りたい。

松村さん、笑恵館を建て替えようよ!・・・と。

昨年末、近所のOさんがこう切り出した時、僕は驚いて息が止まった。

何しろ僕は、これまで「笑恵館を建て直す」なんて考えたことなかった。

いや、正確に言うと、考えないように封印してきた。

だからこそOさんの提案は、見事に僕の心臓を突き刺した。

今にして思えば、そもそも初めに僕が受けた相談は、笑恵館の建て替えだった。

この家で生まれ育ったTさんにしてみれば、老朽化した住まいを建て直したいと願うのは当然だ。

はじめのうちは、僕も一緒になって、近所の人たちが集う地下ホールの図面を書いていた。

だが、次第にTさんが借金する気満々になるのを見て、僕は違和感を感じ始めた。

当然のことながら、借金の前提は「成功し返済すること」だ。

だが、これから挑む笑恵館という事業に対し、成功の保証など僕にはできなかった。

だから僕は、あえてそれを否定して、自己資金でのリフォームを強く主張した。

周囲の人たちにもお願いし、古いことにこそ価値があるとTさんだけでなく僕自身にも言い聞かせた。

この考え方は正しいと、僕は今でも確信する。

それは方法が目的化しないよう、目的を見失わないようにするためだ。

笑恵館では、昨年から隔月で「ホームホスピス勉強会」を開催しているが、なかなかうまく進まない。

2012年から始めた笑恵館ミーティングは、2年後に笑恵館の開業にこぎつけたのに、今度の勉強会はなぜかうまく進むとは思えない。

だが、「ホームホスピスを建設し成功させること」が、いつしか目的になってしまったことに僕たちは気が付いた。

僕たちの目的は自分の町に「ホームホスピスを」作ることでなく、「自分の町を」あたかもホームホスピスがあるようなまちにすることだ。

借金して「笑恵館を」建て直すのでなく、借金せず「Tさん宅を」笑恵館にすること・・・それが僕の選んだチャレンジだ。

借金をして設計と施工を行えば、確かに笑恵館の建て直しは実現する。

だが、本当の目的はきれいで快適な笑恵館を作ることでなく、誰もが孤立せずに暮らしていける、地域に開かれた「みんなの家」として永続的に運営することだ。

そして5年の月日が経ち、笑恵館は目指す姿に近づいてきた。

残された課題は、「無償譲渡による所有権の法人化」の1点に絞られた。

年賀状に「・・・課税を猶予せよ」と書いたのは、僕が借金による納税を強く意識しているからだ。

ところがそこにOさんが現れて、チャレンジに投資したいと言い出した。

それは、かつてTさんから「笑恵館を託したい」と言われたときの再来だ。

託すとは決して丸投げの意味でなく、共に挑んだ仲間に自分の死後を託すこと。

土地や建物のすべてを提供するTさんに対し、お金のない僕は知恵と汗で応えてきた。

だがそこに、資金を提供する仲間が現れれば、税金を払うだけでなく、建物を作ることも夢じゃない。

年賀状で宣言した通り、非営利法人への土地無償譲渡をやりやすくすることが今年の課題だ。

税務当局に対して提言したいので、税務署に知り合いがいたら教えて欲しい。

一方Oさんの提案を、僕は「仲間づくりと資金集めを同時に進める土地永続利用へのチャレンジ」と理解した。

まちづくりとは、土地を使って願いを叶える事業を作り、永続化することだ。

結局正月休みは、笑恵館の「非営利等価交換スキーム」作りに明け暮れた。

願いが叶うとは、「封印してきた願いをズバリと言い当てられてしまうこと」かも知れない。

1月6日にスタートする、今年も忙しい年になりそうだ。