残るが本当

10月1日は、株式会社辰(しん)の創立20周年記念パーティに出席する。

この会社は、1999年の10月1日に僕が立ち上げた建設会社だ。

父から引き継いだ建設会社が経営に行き詰まり、裁判所に破産の申し立てをしたのが、1999年8月9日のこと。その1週間後には、施工中だった17現場を会社が無いのに再開するという暴挙に出た。

僕のめちゃくちゃな提案を聞いてくれた17人の施主はもちろんのこと、僕に解雇された社員たち、そして僕に踏み倒された下請け各社が起こした「奇跡」だと、今でも確信する。

その暴挙を終わらせるために、僕はもう一度同じ会社を立ち上げた。

あれから20年、僕が離れてから15年のこの会社は、見事に成長した。

この会社の売りは、面倒な仕事に挑むこと。

難しい仕事や競争の仕事に積極的に挑むことだ。

なぜ、こんな偉そうなことが言えるのか。

それは、すべて本当のことだから。

普通なら、難しい仕事や競争の仕事を喜んでやる会社などあるはずがない。

だがから立ち上がったばかりの会社は、そんな難しい仕事をやるしかなかった。

建設業は、請負(うけおい)と言って、高く受注して安く発注することで差益を得るビジネスだ。

難しい工事は下請けが安価で引き受けてくれないし、競争相手の多い入札では最低価格を出さないと受注できない。

つまり、難しい仕事とは、儲からない仕事を意味する。

僕は、本当のことをそのまま受け入れ、その困難に挑む道を選んだ。

その道を避けられないのなら、受け入れるしかないし、受け入れるなら挑むしかない。

だが意外なことに、この考えは社員たちにすんなりと受け入れられた。

それは、この困難を逃れ楽な道を歩んでいたことが、倒産を回避できなかった原因だから。

これもまた本当のこととして受け入れたからこそ、誰も反論しようとしなかった。

その結果、ほとんどの仕事が建築家のこだわり設計で、競争入札での受注となった。

20周年を記念して発行した作品集を見れば、それは一目瞭然だ。

今この会社にとって、こうした戦いの歴史が価値となり、魅力となっている。

振り返ってみれば、や困難を克服したことだけが外部からの評価や感謝の対象だ。

や利潤は内部の自己満足にすぎず、同業者の経営指導でもしない限り何の役にも立たないだろう。

この会社が、僕のの原点だ。

倒産から蘇った僕にとっての起業とは、効率よく成功を実現するのでなく、たとえ遠回りでも二度としないよう継続することが目的だ。

継続していれば、成功することもあれば失敗することもあるだろう。

だが、成功がゴールでないと同時に、失敗も終わりではない。

成功も失敗も、すべてが実績として歴史になり文化になっていくのだろう。

時が経てば、成功と失敗が入れ替わってしまうことすらある。

だから、正確にいうと、成功と失敗が歴史を作るのではないと思う。

想像や仮説でなく、「本当の話」だからこそ、現実が人を動かすのだと僕は思う。

株式会社辰 http://www.esna.co.jp/