営利の利と利益の利

笑恵館で久しぶりに、複式簿記のセミナーを開催した。

僕はもちろん簿記の勉強はしたことが無く、経理はど素人だが、自分の会社だけでなく数人のビジネスの経理をサポートし、決算を手伝っている。

なぜかと言うと、ビジネスをやるのなら経理は自分で出来る程度に分かっていなければならないから。

起業しようとする人には、必ずそれを伝え、サポートするようにしている。

でも本当はそれだけではない。

実は経理は面白いから、ついつい他人のビジネスまで首を突っ込みたくなってしまう。

僕の経理は完全に自己流だが、その分どんなビジネスにも対応できる。

貸借対照表と損益計算書を作ることさえできれば、決算や納税は簡単だ。

でもこんな偉そうなことが言えるのは、20年前会社を潰した時、お金が無いから経理システムを自作したおかげだ。

建設会社を動かすためには、最低でも顧客管理と原価管理と財務管理が必要なので、エクセルでデータの流れを考えながらアクセス(マイクロソフトのデータベースソフト)を構築した。

経理の担当者が「経理は勘定奉行を使いたい」というので最終的にはそうしたが、僕が素人なので経理の仕組みを理解するには自分でエクセル上に再現するしかなかった。

さぞかし大変な作業だろうと、重い気持ちで始めてみると、これがビックリするほどすいすい出来上がった。

そもそも経理って、昔から世界中の人がやってること。

コンピュータが普及する前は電卓で、その前はそろばんでやっていたが、そろばんの無い国は暗算でやるしか無かったはずだ。

企業の経理は当然「複式簿記」なので、貸方と借方の2列を作り、入金と出金を分けて書かなければならない。

面倒だと思いながらも表を作り、sum関数で集計できるようにした時、僕はふと「全部足し算で出来るんだ」と気が付いた。

入金がプラスなら出金がマイナスで、それを足したり引いたりするのが簿記だと思い込んでいた僕にとって、この気づきは衝撃だった。

でも、次の瞬間僕はこう確信した。

400年前から世界中で使われてきたやり方が、難しいわけがないじゃないか・・・と。

こうしてエクセル上で簡易な会計システムを作り上げ、その後は勘定奉行に引き継いだのだが、むしろ僕はその後もエクセルの方を使い続けている。

セミナーでもこのシステムを紹介しながら、「財務会計の簡単さ」を熱く語った。

さて、今日の本題はここからだ。

会計とは、入金と出金を科目で分類しながらひたすら入力する作業だ。

そしてすべてを集計して求める答えは「入金-出金=利益」となる。

この利益こそ、税金のもとになり、株主の取り分なので、これを年に一度計算する「決算」が一番大事な仕事になる。

全ての「入金」と「出金」は請求書や領収書などの根拠があるが、「利益」だけは根拠のない計算値だ。

だから、「利益は大切だ」と僕らは思いこんでいるが、利益は全て株主の取り分だということを忘れないで欲しい。

利益から税金を払っているのは、むしろ株主であって、働いて稼いだ人ではない。

僕たちが苦労して稼ぎ、苦労して計算した利益は、資本を出資しただけで何もしていない株主のものだ。

もちろん、起業するほとんどの人は自分自身が株主なので、利益は自分のものになる。

だが、その自分は苦労して働いた自分ではなく、楽をした自分ということだ。

では、苦労して働いた自分は、どのように報われるのだろう。

それは、利益でなく報酬や給料であり、会計上は「経費」となる。

結局ビジネスの利益とは、ビジネスの結果余ったお金のことであり、だからこそ何もしない人に払うことができると言える。

だが、それが本当に利益と言えるのだろうか。

何もせずにお金をもらえることこそが、「利益」なのだろうか。

例えば「社会の利益」と言った時、社会で何もしない人が得をすることを言うのだろうか。

いやそうではないだろう、おそらく人々の努力や苦労が報われることを言うのではないかと思う。

何もせず楽をしても、余ったお金がもらえることを、「豊かさ」というならば、まさに現代は豊かさを追求する時代になったと言える。

利益とは「余り」のこと、豊かとは「余る」ことを指すのだろう。

だとすれば、「余った家」や「余った土地」は、豊かさがもたらす利益ということになる。

「空き家」とは、豊かさが生んだ余りのことだ。

空き家問題の問題点は、「空き家の悪さ」を説明できないこと。

空き家が汚れたり壊れたりして、近所迷惑になるのであれば、それを「空き家の悪さ」と言えるが、手入れと管理をすることで何も迷惑をかけなければ、「空き家は何も悪くない」となってしまう。

つまり、「空き家の悪さ」とは、それが「余り=利益」であることかもしれない。

僕が今、「地主業とは非営利不動産業のこと」という結論を見出したのは、こんなことを思うからかも知れない。

営利の利と、利益の利の違いを見分けないと、この話は理解できないと思う。

(2019年1月の記事を再投稿しました。)