お役人が熱く語るとき

先日、S区の保健所担当者が僕を訪ねて笑恵館を訪れ、いきなり「住宅宿泊事業法案」についての話を切り出してきた。

この法案はいわゆる「民泊法案」で、6月1日衆議院を通過した。

参議院での審議を経て今国会で成立すると、早ければ2018年1月にも施行される見通しだという。

訪日外国人が、これまでの急増に留まらず今後の増加も見込まれる中、民泊市場が急速に拡大しているが、実質的な運営者が誰なのか分かりにくく、騒音問題、やゴミ問題が次々と浮上し、自治体に寄せられる民泊に関する苦情や相談も増えている。

この法案は、民泊の主要プレイヤーとなる民泊ホストや代行会社、Airbnbなどの民泊サイト運営事業者に対して届出制度や登録制度を設けることで適切な規制体系を築くことを目的とする。

法案の具体的な内容について少し触れると、民泊ホストなどの住宅宿泊事業者に対しては都道府県知事への届出を義務付ける他、年間提供日数の上限は180日とし、地域の実情を反映し上乗せ条例によってさらに厳しい日数制限を設けることができるようにする。

また、家主居住型の民泊ホストについては、住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置(衛生確保措置、騒音防止のための説明、苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け、標識の掲示等)が義務付けられる。

民泊の運営代行を行う住宅宿泊管理業者には国土交通大臣の登録必要となり、民泊の仲介サイトを運営する事業者については観光庁長官の登録が必要になる。

なぜS区の保健所がこんな相談に来たのかと言うと、旅館業法に関する許認可業務は保健所の管轄なので、この問題に関する検討を開始したとのこと。

一般にこの法律は、地域内の旅館など既存宿泊事業者との調整が必要になるのだが、S区は住宅街のため旅館やホテルはほとんど存在せず、むしろこの法案によって民泊の無法地帯が出現する恐れを警戒しているようだ。

そこで、法案の施行に先立ち、区としての「民泊の望ましい姿」的なビジョンを描き、空き家、無縁社会、高齢化などの地域課題を解消するきっかけとしてしまう「裏技」はあり得ないだろうか…という趣旨の相談をしたいという。

やってきた3人のうちの一人はいわゆる専門職の方で、数年ごとに配置の変わる一般職と異なり、長年この仕事に携わっているため、この法案から感じられる大きな可能性を是非とも活かしたいと熱く語る。

僕の方も、すっかりほだされ、次第に本気になってくる自分を感じていた。

そこで僕は、千駄木のHAGISOの例を挙げ、商店街の中にフロント機能を持つカフェがあることで、地域内の老朽アパートが民泊施設になるだけでなく、地域内の飲食店や銭湯など町全体を宿泊施設に見立てることにより、地域から応援されるビジネスを構築できる可能性を示した。

すると、専門職のOさんも、地域に根差した商店にフロント機能を持たせることで、ゴミや苦情の対応ができないかと考えていて、一気に話は盛り上がった。

S区内の住み開きプロジェクトやシェアハウスやゲストハウスなどのプレイヤーたちにこちらから呼びかけて、地域ごとに緩やかな民泊ネットワークを構築するべきだ。

そうすることで、現状バラバラな区民のコミュニティがつながっていくかもしれない。

さらには、東京オリンピックに向け迷走する観光施策にも、具体的な目的を提示できるかもしれない。

そして今日は、Mさんのお誘いで「福生のまち歩き」に参加した。

福生と言えば、東側エリアの横田基地、米軍ハウスが有名だが、今日は西側の玉川上水からさらに引き込まれた水路でつながる「昔の福生」を訪ねる散策だった。

正直言って「何か発見があればいいな」程度の思いで参加したのだが、歩き始めてびっくりした。

まず初めに訪れた「旧ヤマジュウ田村家住宅」では、左官職人の窪田さんが待っていて、古民家の説明はそこそこに、左官の話や、昔のまちの様子を記憶で描いた多数の絵を見ながらのお話に、一同釘付けに。

散策には、地元の旧家のご主人が同行して下さり、個人宅に入り込んで水路と交わる昔の暮らしの名残を見せていただいた。

また、昨年オープンしたばかりの「加美上水公園ビジターセンター」では、施設を運営する自然塾塾長のKさんから「今この施設は福生市が所有者から買い取る方向で検討されているんですが、本当は僕が購入して蕎麦屋でもやった方が絶対にうまく行くと思うんだけどね」と本音がチラリ。

Kさんが元都庁職員だったと聞いて、僕はその言葉の意味は大きいと思った。

今回の法案が、特段素晴らしいとは思わないし、単に許認可制度の拡充をしただけと言えばそうだろう。

だが僕は、そろそろそういう考え方を変えるべきなのは、僕たち市民の側なのではないかと感じている。

民泊は、まさに現状社会の盲点を突く巨大な抜け穴ビジネスだ。

しかし今、我が国はこれを単に取り締まるのでなく、うまく利用する道を探らざるを得ない状況だ。

そこで作られる制度は、所詮取り締まりと許認可の組み合わせに過ぎないが、その抜け道をかいくぐるいたちごっこに進むのか、社会を進化させるためのハードルとして官民協力して挑むのか、決めるのは僕ら自身だと思う。

もしも前者を選ぶのなら、役所の本音を事なかれ主義と決めつけていけばいい。

だがもしも後者を選ぶなら、熱く語る役人の意見に耳を澄まし、その上を行く提案をすべきだと思う。

もちろん僕は、熱く語る役人の言葉を真に受けて、彼らが困るくらいに暴れてやろうと思っている。