一番最後に来ましたね

3泊4日で隣の国に行ってきた。

行程としては、まず仁川(インチョン)空港からソウルに入り、2日目からバスに乗り水原(スウォン)→扶余(プヨ)→全州(ジョンジュ)→慶州(キョンジュ)→釜山(プサン)と巡り、4日目は大邱(テグ)の空港から帰国する、韓国の北西から東南にS字型に縦断するコースだ。

到着早々「韓国に来るのは何回目ですか?」というツアーガイドの朴女史の問いに、「初めてです」と答えると、「一番近い隣の国なのに、一番最後に来ましたね」と意味深な答えが返ってきた。

口から生まれたような彼女のマシンガントークに最初は辟易していたが、僕の意地悪な質問にも臆することなくすべて答えてくれるので、結局4日間、よく語り合った。

このレポートは、釜山住まいの朴女史と僕の会話の記録だ。

韓国、いや朝鮮はとても歴史の古い国だ。

4世紀には、高句麗、百済、新羅の3国が相次いで成立し、独自の発展を遂げたという。

今回巡った都市のうち、扶余は百済の都として、慶州は新羅の都として繁栄した。

特に慶州は、新羅全盛の7世紀ころ人口100万の都市だったと言われている。

これは、当時イスタンブール、バグダッド、長安に次ぐ世界第4の規模だと聞き、本当に驚いた。

10世紀には高句麗が全土を制圧、その後元などの支配を経て、1392年李成桂(イ・ソンゲ)が統一挑戦を建国。

韓国の人たちは、これを建国とみなしている。

今回2日目に宿泊した全州は、その李成桂の出生地とのこと。

近年、これらの史跡が次々と世界遺産に認定され、国内外から観光客が訪れるようになったそうだ。

韓国に行って一番驚いたのは、林立する高層マンションの迫力だ。

3~40階は当たり前、高いものになると80階を超すものもある。

ソウルや釜山などの大都市は当然のこと、高速道路を走っていると郊外にも忽然と超高層マンション群が現れる。

韓国は冬寒く乾燥しているので、バルコニーの外にもガラスを張りサンルームのようになっているため、その外観はガラス張りのオフィスビルと変わらない。

バルコニーには一応通り抜けできる避難口があるが、隣家からの侵入を恐れて誰もが塞いでしまっているらしい。

近所付き合いもほとんどなく、隣の住人と10年以上顔を合わせないのが普通だという。

マンションはほとんどが分譲で、その一部が賃貸されている。

戸建ては全く不人気で、膨大なマンション群にはほとんど空きはないという。

これをコンパクトシティの成功例と言っているが、それは疑わしい。

1.2人台の出生率は日本よりも低く、今後の少子化とともにマンション群が廃墟になると想像するだけで恐ろしい。

都会のビル群も自由なデザインで面白く、新しい開発が目白押しといった感じ。

街は日本とアメリカを足して2で割ったようなイメージだが、道路はどこも広くて、車も多い。

一方、韓国の郊外や田舎はどうなっているのかを知るには、今回のバス移動は期待通りだった。

まず日本と同じく韓国は山国だが、あまり植林がされておらず、全体として広葉樹林が多かった。

主な針葉樹は松で、杉やヒノキはほとんど見られない。

アカマツ林も随所にあり、全国でマツタケが取れるらしいが、松の花粉症もあるそうだ。

また、全国の松が松くい虫の被害で危機的状況にあり、至る所でビニルシートがかけられて、松くい虫の駆除が行われていた。

果樹としては、リンゴと栗が多くみられた。

畑では稲作や野菜の他、ハウス栽培も盛んで、就職難の都会より確実に生計が成り立つという。

今の季節は、ニンニクと菜の花が畑を彩っていた。

田舎に残る古い家は、オンドル(床暖房)式のためみな平屋だ。

そして、集落の端の明るい斜面には、そこここに小さな古墳のような緑のたんこぶ型の墓所がある。

この墓も、近年の少子化で放置や放棄が進んでいるという。

いずこも同じだ。

僕にとって、韓国料理は申し分ない。

主菜の肉料理以外の、ごはんやキムチやナムルなどのおかずは全てお代わり自由と聞き、ますます気に入った。

レストランでは食器はすべて金属製だが、洗うのが大変なので家庭では陶器を使うそうだ。

ただ、箸は必ず金属製で、割りばしなど使い捨ては条例で禁じている。

そして、韓国では肉と骨が同じ値段、さすがコムタンの国だ。

キムチは日本の沢庵と似たような存在で、修行僧はご飯を食べた後、お茶とキムチで器を清める。

もちろん、にんにくと唐辛子は入れないそうだ。

韓国では生麺を食べる習慣がなく、ラーメンは意外と人気が無いがカップラーメンはかなり充実していた。

そして若者にはたこ焼きが大人気。

ま、タコを生きたまま生で食べちゃう国だからね。

そして話題はコスメ産業へ。

韓国では、整形と美肌は完全に定着したという。

整形外科と皮膚科のクリニックがあちこちに看板を掲げ、女性は高校生になると整形を始めるそうだ。

その原因は「性格の悪いのは許せるが、顔が悪いのは許せない」という韓国男性にあると朴女史は言うが、すでにその影響は男子にも及び、テレビでも引っ張りだこのNO.1タレントのソンジュンギは、顔やスタイルよりも、その美肌が人気なのだという。

そう言われてみると、いかにも整形美人が大勢歩いている。

大統領選挙が近いので、選挙運動員らしき整形美人もたくさん見かけた。

僕も危うく「カタツムリパック」を買わされそうになった、恐ろしい。

3日目の晩、釜山駅の近くで日本領事館の前を通過したが、慰安婦少女像は残念ながら暗くて見えなかった。

でもそれに気づいて「せっかくだから見たかった」というと、朴女史は吐き出すように語り出した。

「慰安婦問題は、一部のたかりのような人がやっていることなので、大目に見て欲しい。北朝鮮問題は、大部分の人が無関心で、株価も全く反応していない。朴槿恵大統領は、父親の功績もありみんなが応援したので、その失望もまた大きい、残念だ。韓国人は、プライドが高く、庶民ですら家柄自慢に余念がない。週末を“花金”ならぬ“火金”と呼び、燃えるように遊ぶ。夫婦げんかもすさまじく、すぐに絶交状態になる。でも夜になって帰宅すれば、仲直りしてベッドに入る。韓国の夫婦は、必ずダブルベッドにダブル布団で一緒に寝る。良くても悪くてもそれが韓国人。だから仲良くしてください。私たちが北朝鮮との間の緩衝材になりますから、助け合っていきましょう。時々喧嘩するかも知れないけど、お隣同士なんだから、仲良くしましょ。」

韓国は近くて遠い国だった。

でも、ご近所さんとはそういうモノ。

歴史を振り返れば、2千年以上のお付き合いだし、その国を60歳で初めて訪ねたなんて、「一番最後に来た」と言われても仕方がないと思った。