会社ごっごと法人ごっご

昨年の夏、毎年僕が審査員を務める東京都の「チャレンジアシストプログラム」という助成事業で知り合ったH君がに僕を訪ねてくれたことがきっかけで、地元の日大商学部の友人たちが笑恵館でたむろするようになった。

彼らはとても気さくで人懐っこく、笑恵館だけでなく近隣のおおがいさんちやさくまさんちのイベントにも参加して、地域住民とも積極的に交流するようになった。

やがて彼らが日大商学部でマーケティングを学んでいることが知られるところとなり、近所の方たちからwebページの製作や家庭教師など細かいアルバイトを頼まれるようになった。

そこで僕は、今年3年生として就活に挑みながら進路を決めていく彼らに対し、何か大学とは違うアドバイスや提案ができないものかと考え、「法人ごっこ」を開始した。

「法人ごっこ」は、メンバーたちが自分自身で提供できる商品を持ち寄り、笑恵館のある砧エリアで実際に販売するプロジェクト。

当初「会社ごっこ」を思いついたが、「法人ごっこ」と命名したのには2つの理由がある。

一つは、例によってググってみた結果「会社ごっこ」はすでに大勢に使われていること。

そしてもう一つは、「会社」という言葉が「営利目的」を連想させること。

ビジネスを担うのは、会社のような営利組織だけでなく、NPOなどの非営利組織や自治体などの行政組織など様々だ。

これから進路を考える彼らには、「営利-非営利」の枠を超えて自由な発想をしてもらいたいと考えた。

2月2日に開催した第1回目は、ガイダンスということで「営利-非営利」について次のような話をした。

営利とは「利益を目的とすること」だが、多くの人がこの「利益」について間違った理解をしている。

利益とは、会計上「剰余金」と呼び、余ったお金のことを意味している。

収入から、仕入れ・報酬・経費など必要な支出を差し引いた余りを利益といい、余らずに不足すれば損失となる。

この利益や損失は、一体誰のものなのか・・・それは「所有者のもの」となる。

株式会社の所有者は株主なので、利益はすべて株主のものとなり、その処分についてはすべて株主総会で決定される。

株主が利益をすべて配当せず「内部留保」と言われる貯金をするのは、あくまで損失が出た時の配当に備えるためであり、経営者のへそくりではない。

最近よく、「大企業は膨大な内部留保を社員に還元すべき」という声が聞かれるが、それは経営者でなく株主が決めることだ。

一方、非営利とは「利益をすべて事業に再投資すること」だが、こちらも多くの人が判っていない。

非営利型の法人には、社団・財団法人、NPO法人の他自治体などの公共団体があるが、いずれもその所有者が利益の配分を求めず、全てを事業のために使うことを求めている。

「営利と非営利」はまるで反対の概念だ。

「営利」は儲かったり得をしたり、楽をすることを求めているのに対し、「非営利」は役立ったり広がったり、継続することを求めている。

だが我々にとってこの2つは、どちらも欠かせない。

幾ら儲かっても続かなければ困ってしまうし、いくら続いても儲からなければうれしくない。

そこで僕は、世界がこの双方で成り立っていることを「法人ごっこ」で伝えたいと思う。

それは、「利益を相手に提供し、自分は必要な報酬を得る」という考え方だ。

営利法人においては株主に利益を提供(配当)することで自分が報酬を得る、非営利法人においては社会に対して利益を提供(投資)することで自分が報酬を得る、それが経営者の役割だ。

つまり、「営利と非営利の違い」は、相手の投資に応えて利益を生むか、生み出した利益を自ら投資するかの違いだと言えるのではないだろうか。

「法人ごっこ」は、大学生主体で始まった市民のプロジェクトだ。

大学生たちが、大学の周辺地域の市民と関わりを持ち、現実社会の仕組みを学ぶ取り組みは各所で行われている。

だが、それが学校教育の延長として教員の指導の下に行われるのでは、社会科見学の域を出ないのではないだろうか。

もちろんそれは、大学側の問題ではなく、こうした学生を市民として受け入れる仕組みを持たない地域社会の側にある。

大学に地域社会を活用してもらうのでなく、地域社会が大学を活用するというスタンスで僕はこのプロジェクトに臨みたい。

そしてこのプロジェクトが、大学の仕組みをフルに活用し、サークル活動のように後輩たちに引き継がれる継続事業になればと願っている。