最高のトイレ

名栗の森オーナーズクラブのミーティングを駒沢のSさんのサロンで開催した。Sさんは愛犬家で、先回の説明会にはご主人と一緒に3匹の犬を連れての参加だった。「犬を連れて山に行く」と聞いても、にわかにはピンと来ないが、現地では犬連れで上から降りてくる夫婦ともすれ違い、「犬を連れて山に行く人」がいることを初めて意識した。次回の名栗の森例会は、いよいよ隣地境界の尾根伝いに森を縦走するのだが、これまで登山道から見上げるばかりだった山林を、「上から見下ろしながら歩くのってどんなだろう!」と、かなりマニアックな盛り上がり方をするようになってきて、改めてこのプロジェクトの新規性を感じたりする。と、そんな時僕の頭にあるアイデアが降ってきた。考えてみれば犬用のトイレなんて見たことない。そろそろ僕らは、トイレ無しで活動できるようになってもいいんじゃないかと。

僕はもともと建築屋で、工事現場では最初にトイレを作るのが常識だ。被災地などでもトイレの確保が最重要課題となる。近年は、娯楽施設などにおいてもトイレをきれいにすることが重要な魅力となる。しかしトイレの設置は簡単ではなく、給排水とし尿処理の仕組みが必要だ。僕らが対象とする山林の大部分には、そんな供給は無いので、設置するとしたらそうしたインフラの要らない完結型の独立トイレにせざるを得ないが、かなり高価な費用(100万円単位)が掛かってしまう。その上、設備が立派であれば、それだけ維持経費もかかってしまう。たとえ山林を生かしたビジネスを生み出したとしても、そんな高額な設備投資や維持経費の負担は大きい。収益が確保できてからならまだしも、まず初めに設置するというのは、考えにくい。

そこで、もっと安価なトイレの作り方を様々模索してきた。パーマカルチャーの活動家たちが考えた、コンポスト型の安価なバイオトイレの作り方を活用すれば、数万円程度でトイレを作ることも難しくはない。山林活用の中でトイレづくりというメニューがあってもいいと思う。しかし、そこでたい肥を作っても、まだ山で畑を作る予定はない。次第に僕は「本当にトイレは必要なものなのか?」という疑問を持つようになっていた。山を渡り歩くマタギやアイヌの人たちや、アメリカインディアンたちが山の中にいちいちトイレを作ったとは考えにくい。それは貧しいとか技術が遅れているという問題ではなく、優先順位とか価値観の問題だ。「名栗の森の近所にトイレがあれば、できれば無い方が良い」に決まっている。

だったら「トイレの無い暮らし方」ってどんなだろうと思い、早速ネットでググってみた。ところがそんな記事はまるで見つからない。その逆に、11月19日の世界トイレデーには、「現在、全世界で3人に1人は改良型衛生施設を利用できず、8人に1人が屋外で排せつしています。」という由々しき問題が報告され、世界中にトイレを普及売る取り組みが紹介されている。でも僕らの目指す「トイレ不要な活動方法」とは、トイレ無しで生きていこうというわけではない。むしろ、未開の地に挑む探検隊や調査隊がトイレを使わずにどうしているか、そういう発想に切り替える必要があるようだ。そこで、検索ワードを「携帯トイレ」に切り替えると、様々な商品にヒットする。極地利用、防災グッズとして販売するうち、スポーツや野外活動用にも使われ始め、T社のQQトイレは、富士山の山麓を3日かけて走る耐久レース、「ウルトラトレイル・マウントフジ」の必携品に採用され、これを持っていないとレースに参加できないという。

きれいなトイレを作ることが、安心して用を足せるトイレを探し回るストレスからの解放であれば、使い慣れた携帯トイレを持つことは、そもそもトイレ依存からの解放だ。自然の中で安全なプライベート空間を確保できれば、無粋なトイレでなく花や緑に囲まれてのんびりウンチをエンジョイできる。名栗の森は、そんな発想が求められる、最高に刺激的なプロジェクトだ。むしろ、自然と一体化した、最高のトイレを作りたくなってきた。