恐ろしさ に気付くこと

恐ろしい目に合えば恐ろしさを知ることができかも知れないが、エイズや薬物の恐ろしさを知ってからでは手遅れだ。

今日は、僕がこの二つの恐ろしさに気付いたエピソードをお話ししたい。

日本はHIV・いわゆるエイズの新規感染者率が増加しており、先進国で唯一、新規感染者が増加傾向にある。

エイズの感染経路は主に「性感染」「母子感染」「血液感染」といわれるが、途上国のほとんどが「母子感染」であるのに対し、日本は「性感染」で拡大しているとのこと。

これは、公衆衛生などの環境要因でなく、性教育の不足、問題意識の欠如などが主な要因と考えられる。

日本人でエイズを知らない人などいないのに、エイズが増え続けているということは、エイズを真剣に防ごうとしていない、エイズを甘く見ている、エイズを論ずることをためらっているなど、「エイズの恐ろしさを具体的に知らない」のではないかと僕は思う。

10年ほど前のこと、クリエーションスクエア渋谷という施設の運営をしていたころ、エイズ撲滅キャンペーンの会場としてスペースを提供したことがある。

その時、エイズ予防財団の方から「エイズ検査で陽性になった人のその後」を聞いた。

エイズは10年以上の潜伏期間があり、その後発症すると「免疫不全症候群」と言われる症状が現れ、些細なケガや病気でも自己治癒ができず、体が膿んだり腐ったり悲惨な末路が待っている。

現状エイズの治療法は皆無に近いが、発症を抑制する抗HIV薬が開発され、エイズ感染者が発症を防ぐにはこの薬を飲み続けるしかない。

ところがこの薬は、値段が高額で、たとえばHAART療法の代表薬剤3種「ビリアード(TDF)1錠 1,988円、エピビル(3TC)1錠 1,854円、ストックリン(EFV)1錠 1,863円」の合計は5,705円、30日処方で171,150円となる。

通常、病院やクリニックでの自費算定で1.5~2倍なのでこの療法を自費負担だけで行なうと薬代金だけで月間25~34万円、保険適用でも7~10万円となり、治療の継続は事実上困難といえる。

その結果、ほとんどの人が生活保護となり医療費は全額免除となるが、地獄はここから始まる。

つまり、その人にとっての生活保護は、脱却できない命綱。

辛い病気で死ぬのはエイズに限ったことではないが、本当のエイズの恐ろしさは「自分の力では生きていけない状態に陥ること」なのだと僕は思う。

友人のYさんが、DARC(http://tokyo-darc.org/)という薬物、アルコール依存症の自立支援施設を見学してきた話をしてくれた。

薬物とは覚せい剤や麻薬など、いわゆるドラッグのことだが、一度使用すると中毒や依存状態を引き起こしてやめられなくなり、その購入のためにおカネが必要となって生活がしてしまう。

使用はもちろんのこと、所持しているだけでも犯罪行為であり、検挙・起訴されてようやく更生が始まるが、多くの人がまた使用を繰り返し、命を落とすこともある。

とここまでは、僕も知ったかぶりで知っていたが、Yさんの話はこれからだ。

「では、ドラッグというのは普通の人が一番楽しい時に比べて、どれくらい気持ちがいいのか皆さんご存知ですか?」と尋ねられた。

居合わせた多くの人が、2倍とか3倍と答えたが「ドラッグ経験者が口を揃えて言うには、通常の最高を100とすれば、ドラッグの楽しさは1000だそうです」とYさんは話す。

だから、一度1000の楽しさを知ってしまった脳はこれを忘れられないため、何度やめてもいつでもまた繰り返してしまう。

死んでもいいと思ってしまうのが、ドラッグの恐ろしさだという。

正直言って、僕は初めてドラッグの恐ろしさを知った気がする。

「恐ろしい」ということは知っていたが「どのように恐ろしいのか」を説明できなかったのは、「知っているけど説明できないのは、解っているとは言えない」という僕の自論にも一致する。

言い換えると「恐ろしい」とだけ教えても、「どう恐ろしいのか」を説明しないとわからない。

「10倍楽しいことが恐ろしいこと」を説明し、理解しなければ、この問題は解決しないと思う。