言いだしっぺ

昨日、笑恵館の常連のご婦人Oさんがやってきて「やっと松村さんに会えた、ちょっと相談があるんだけど」と、ドカと向かいの席に腰かけた。「私の家のお向かいさんと裏隣りとその奥の家が空き家なのよ。これを何とかしたくて松村さんに相談したかった」とのこと。「なになに?」と僕は身を乗り出して話を聞くことにした。お子さんたちはみな独立し、大きな家に夫婦二人で暮らしているが、夫はだんだんボケてきて自分の体力も衰えてくる。高級老人ホームでホテルのような暮らしをするのが幸せとは到底思えないし、できれば自宅の周りに気心の知れた人たちが集まって暮らすことができたら、それが一番いいんじゃないかというわけだ。「私がデベロッパーだったら、裏の空き家を買い取って、理想のマンションを建てるんだけど、松村さんならどうする?」ときた。

そこで僕はこう尋ねた。「あなたのような介護の負担を抱える人たちが集まって暮らしたら、助け合うことができていいんじゃない? そこにお金のない若者とか、シングルマザーとかも受け入れて、以前笑恵館でも議論した[多世代型シェアハウス]のように互いを補い合えればいいと思いませんか?」と。するとOさんはすかさずに「だめだめ、そんな人たちが来たら、私すぐ入れ込んじゃってクタクタになるに決まってる。」と本音がポロリ。「じゃ、Oさん夫婦の他に若者の使用人とシングルマザーの女中さんがいるってイメージですか?」と尋ねると、「えげつないけどそういうことね、だめかこれじゃ?」と、照れ臭そうに笑ってた。

そこで僕はこんな提案をした。「まず、普通にマンションを建てるのなら、お手伝いをする気はありません。やるからには、それがみんなにとって[いい話]で、みんなが真似をしたくなる、みんなが参加したくなる、そんな話でなければやりません。だからOさんは、みんながいいと思う夢物語を考えて僕に聞かせてください。それを受けてプランを描き、僕が[言いだしっぺ]になりますから、それにOさんが賛同して下さい。そして、周りの人たちを一緒に口説きに行きましょう。Oさんは、賛同者として総論大賛成で、各論は好きなこと言っていればいいですよ」Oさんはにっこり笑って「OK!」と答えた。さらに僕は勢いづいて「どうせなら、そのプランを周囲の空き家オーナーにも提案し、Oさん宅の周りを[多世代型シェアハウス村]にしましょうよ!」と提案すると、「それはいい! 村づくりしよう! 村づくり!」というわけで明日の昼前には早速Oさん宅を訪ね、周辺の空き家もご案内いただくことに決まり話は終わった。

僕はいつもこんな調子で、本音と建前の両方を必ず話すようにしている。それは、物事には必ず[本音=中身=内側]と、[建前=姿=外側]があり、自分が思うことを人に話す時は「本音を建前に変換する作業」が必要だからだ。人々は[建前]に対し賛否を決め、[本音]の賛否は我慢する。だから総論賛成・各論反対とか、その逆の総論反対・各論賛成となるのはごく自然なことだと思う。肝心なことは、総論に賛成してもらうことと、各論で我慢してもらうこと。だから僕は、進んで[言いだしっぺ]を引き受けることで、各論の愚痴を聞きつつも総論の合意をもとにビジネスを進めてしまう。

この[言いだしっぺ]は、その後リーダーとして先頭を歩かなければならない。だからみんな尻込みをして引き受けようとしないのだろう。でもそれは間違い、そんな心配は無用だ。なぜなら、リーダーはタダ歩けばいいだけだから、みんながついてこなければそれまでのこと。みんながリーダーに従わず別の方向に歩く時、そこには次のリーダーが生まれているので、あなたはその人についていくかどうかを決めればいい。問題は、目指すゴールに向かっているかどうかであり、誰がリーダーかなどどうでもいいことなんだ。それを承知しているOさんだから、平気で僕にリーダーを譲り、賛同者を演じてくれる。目的=夢を実現するということは、そういうことだと僕は思う。

夕べの会議でこの話をしたら、Kさんが「僕も参加します」と言ってくれた。自ら[言いだしっぺ]になり、本音と建前をきっちりしゃべれば、必ず世界は動き出す。